シンポジウム・ワークショップ・公開講座

日韓がんワークショップ

第16回 日韓がんワークショップを終えて

2011年12月9-10日、札幌・京王プラザホテルにおいて第16回日韓がんワークショップが開催された。
今回のワークショップは、「脳腫瘍と発がん・炎症・免疫研究の発展」をテーマとして行なわれた。


第16回日韓がんワークショップ

プログラムコーディネーター:

  • 牛島 俊和(国立がん研究センター)
  • 大島 正伸(金沢大学)
  • Dr. Seung-Hoon Lee (韓国National Cancer Center)
  • Dr. Youg Sang Song (ソウル大学)

オーガナイザー:

  • 牛島 俊和(国立がん研究センター)
  • 瀬谷 司(北海道大学)
  • Dr. Byoung Se Kwon (韓国National Cancer Center)
  • Dr. Junho Chung (ソウル大学)

日本側からは、がん支援総括支援活動班の支援を受けたがん研究者10名を含む14名、厚労省側からの5名の合計19名が参加し、韓国側からはNational Cancer Center(NCC)およびSeoul National University(SNU)の研究者を中心に23名が参加した。9日にはレセプションが行われ、10日は口頭発表14演題、ポスター16演題の発表および討論が行なわれ、その後のバンケでは、ショートスピーチやアトラクションなどにより交流を深めた。

最初の「Cancer and Molecular Immunology」のセッションでは、Seong (SNU)が独自に開発した鉄含有ナノ粒子を使って樹状細胞をラベルし、かつ抗原ペプチドを取り込ませることで抗がんCTLの誘導をin vivoで効率よく誘導する方法を紹介した。ナノテクノロジーをがん治療に応用する技術の高さをアピールした。
瀬谷(北大)は自然免疫の活性化が抗がん免疫の起動に重要であることをKOマウスを使って示し、免疫療法の実用化に必須の新規アジュバントの開発について報告した。Choi (NCC)は 抗がんCTLの活性を強める方法としてT細胞のCTLA4の抑制シグナルをCTLA4-CD28キメラ分子をT細胞に発現させるなどの方法で強い活性化シグナルに変えうることを見出した。この方法はCD4, CD8両方の活性化に有効でリンパ球の養子免疫に使えると云う。
Kwon (NCC)は脳腫瘍の患者にCTL療法を試みてよい結果を残している。抗がんCTLの精製に抗ヒト4-1BB 抗体を用いる方法、EBVのLMP2 WT-1などの特異的CTLを用いて抗がんCTL療法を試みていた。次の「Glioma/Glioblastoma」のセッションでは、Lee (NCC)が神経幹細胞の遊走規定因子を調べて、Nogo レセプターの発現がGlioma 幹細胞の浸潤を抑制すること、in vivo では予後因子となることを示した。
武笠(東大)はがん抑制遺伝子の機能喪失と腫瘍原性について調べ、DACH1がグリオーマの腫瘍原性制御遺伝子であることを突き止めた。DACH1のホモ欠損細胞株を用いた解析では、DACH1はグリオーマでFGF2を転写レベルで抑制し、腫瘍増殖を抑制しているらしい。市村(国立がんセ)は、402 症例の脳腫瘍についてGenome-wide のarray 解析を行い、多数の腫瘍関連遺伝子の変異を明らかにした。グリオーマのサブタイプの進展経路を分子レベルで推定した。

昼食後の第3セッション「Micro environment and inflammation in cancer」では早川(東大)が炎症の好がん微小環境形成におけるサイトカイン・液性因子の関与を示した。これらはがんの免疫回避や編集にも関わり、炎症と免疫のリンクに重要な因子となる。
Kim (SNU)はNinjurin 1 という神経損傷の際に発現する接着因子が炎症初期に免疫細胞に発現して炎症を促進することを示した。自己免疫ラットモデルの実験からのデータだが、多くのヒトがんでNinjiurin1が発現亢進するので、分子標的治療のターゲットに使えると云う。永瀬(千葉がんセ)はpyrrole imidazole (PI) polyamide 分子を抗炎症剤としてがんの浸潤抑制に使い得ることを示した。
PI polyamideはデザインによりDNA結合分子として特定分子の転写抑制などを行う。静脈注射で速やかに核移行が見られるので、抗MMP9 PI などをデザインすれば腫瘍転移を抑えられるという。青木(愛知がんセ)はAPC変異マウスの腸の発がんモデルを使って、rapamucin complex 1 (mTORC1)シグナル経路がポリープ形成に関与すること、この発がんシグナルにはJNK kinaseが必須であることを解明した。これらの阻害剤はAPC変異の腫瘍形成を抑えた。
最後の「Diagnostics」のセッションではKim (SNU)が放射線とTomozolomide (TMZ)の併用がグリオーマ患者の予後改善に寄与することを経験症例から報告した。本法はグリオブラストーマ(GBM)で12か月の平均生存期間をもたらしているが,SNUの施設では腫瘍の種類によってはさらによい結果が得られていると云う。渋井(国立がんセ)はGBMの化学療法抵抗性の因子としてDNA修復酵素の1つ(O6-methylguanine-DNA methyltransferase, MGMT)に注目した。ACNUなどの抗がん剤治療にMGMTを併用するPhase study で抗がん効果は上がり、 平均生存率を上げた。
インターフェロンβとTZMの併用療法にMGMT を加えた治験を予定している。Kwon (SNU)はがん診断の高効率化に独自に開発したencoded particleを使うことを提案した。このparticleは大量の検体試料を色分け、プリントしうるため、高い処理能力で各種アッセイに使える。

また、ポスターセッションでは、日本から東(北大)、二口(名市大)、石川(金沢がん研)、成田(国立がんセ)、岡田(北大)、小沼(国立がんセ)、志馬(北大)、田口(中央大)、安田(がん研細胞生物)、が、韓国からYang(Sookmyung Women´s U.)、Kim(NCC)、Yoon(NCC)、Song(SNU)、Song(Yonsei U)、Park(NCC)、Choi(SNU)、が、大変興味深い研究内容を発表した。

今回のワークショップでは、基礎研究として免疫、炎症の最先端のがん研究、脳腫瘍などの微小環境、マウスモデル、がん免疫学的治療法、ナノ素材など多岐にわたる水準の高い講演が行われた。また、臨床研究では主に脳腫瘍の現状と知識を共有すると共に、活発な議論が十分に行われた。ポスターセッションでも、熱い討論が続けられるなど、ワークショップ会場は終日熱気に満ちていた。バンケ、レセプションを含め、本ワークショップは二国間の情報交換と研究者交流によって相互理解を促進し、その結果、将来のがん研究や治療法、予防法の開発に貢献することが期待される。
最後に、本ワークショップの企画に高い貢献をして下さった佐藤治子助教(北大)、コーディネートして頂いた中村卓郎先生(がん研)、大島正伸先生(金沢大)、牛島俊和先生(国立がんセ)および本ワークショップ開催にあたって支援をしていただいたがん支援総括支援活動班にこの場をお借りしまして感謝申し上げます。

(文責:瀬谷 司)