研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞だけにアポトーシスを誘導する化学療法の確立を目指す
薬剤が取り込まれる場所の違いによりがん細胞だけを狙い撃ち

2-DGとABTを臨床で使う場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?

2-DGは、PET検査でがん細胞を可視化する検査薬として利用されています。グルコースに似ているので、グルコースを大量に必要とするがん細胞に活発に取り込まれるからです。同様にグルコースを必要とする脳細胞や、激しい運動をしたあとの筋肉組織にも、2-DGは取り込まれます。逆に言えば、それ以外の健康な組織には、ほとんど取り込まれません。もう一方のABTはほぼ全身の細胞に取り込まれますが、脳への血管の入り口にある「血液脳関門」を通過できないため、脳には届きません。

つまり、治療の際にこの2つの薬剤を両方取り込むのは、脳以外に存在するがん細胞だけなのです。このため、がん細胞だけを攻撃するピンポイントの治療が可能です。また、2-DGとABTはともに比較的安全性が高く、大きな副作用が生じる可能性は低いと予想されます。

2-DGとABTの組み合わせは、多くの細胞に共通するアポトーシス機構に直接作用するため、脳内に発生したがんやABTを取り込みにくい膵臓がんなどを除いて、多くの種類のがんで治療効果が得られる可能性を秘めています。

【2-DGとABTの組合せによる新しい化学療法】

ABTは脳以外の全身の組織に取り込まれ(青色)、2-DGは脳とがん組織で大量に取り込まれる(赤色)。その結果、両方の薬剤が取り込まれるのは、脳以外のがん組織だけとなり(緑色)、がん細胞だけをピンポイントで攻撃することができる。

今後の研究の展開を教えて下さい。

現在取り組んでいるのは、2-DGとABTによる治療法の効果をより高める研究です。実は、2-DGとABTを様々な種類のがんの培養細胞に添加したところ、一度にアポトーシスが誘導される細胞の割合は35〜95%と大きな差がありました。その理由は、最初の図に示した「プロ生存シグナル」の強さの違いにあると考えています。

がん細胞の細胞膜上には、細胞内にシグナルを伝達する受容体型チロシンキナーゼが過剰発現していることが知られています。このチロシンキナーゼからのシグナル伝達は様々なタンパク質を活性化させてアポトーシスを阻害します。これがプロ生存シグナルで、2-DGとABTによるアポトーシス誘導の効果を弱めてしまうのです。

そこで、プロ生存シグナルを阻害する薬剤を使おうと考えています。すでに、副作用の比較的少ない、有力な候補物質も見つけていますので、今後は2-DGとABTに、プロ生存シグナル阻害薬を加えた3薬剤の組み合わせによる治療の研究を進め、新たな化学療法の確立を目指します。

山口 龍二

TEXT:土谷佳峰 PHOTO:大塚 俊
取材日:2013年11月29日