研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞だけにアポトーシスを誘導する化学療法の確立を目指す
偶然手に取った2-DGに、アポトーシスを誘導する効果があった

ABTと2-DGを組み合わせることは、どのように着想したのですか?

実は、この組み合わせを試したきっかけは、偶然なのです。当初、ABTがミトコンドリアからシトクロムcを放出させる作用を研究するために、培養細胞を使って実験を進めていました。そんなある日、細胞内のエネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)が多いほうが、ミトコンドリアの作用時間が伸びて、より多くの細胞がアポトーシスを起こすのではないか、と思いつきました。そこで、大量にATPを産生するようにグルコースを与えた培養細胞と、その反対に、細胞に取り込まれてもATPをつくらないグルコース類似体を与えた培養細胞で、ABTの効果を比較することにしました。グルコース類似体には複数の候補があり、どれを使ってもかまわなかったのですが、偶然手に取ったのが2-DGでした。

実験前は、グルコースを与えた培養細胞のほうが、アポトーシスが誘導されやすいと予想していました。しかし、実験の結果、2-DGを添加したがんの培養細胞のほうが、アポトーシスを起こした細胞が多かったのです。その時は、「実験に失敗してしまった」と思い、がっかりしましたが、実験をやり直しても結果は同じでした。そこで、なぜ2-DGを使ったほうがアポトーシスが起こりやすいのか分析したところ、2-DGがBakとMcl-1を引き離す働きをしていることがわかったのです。

ABTと2-DGのがんに対する効果は、どのように確かめたのですか?

これまで、がんの培養細胞やマウスを使って研究を進めてきました。下の図は、マウスにがん細胞を移植し、移植後9日目から27日目まで2-DGやABTを組み合わせて投与した実験の結果です。無治療の実験群(A)に比べて、2-DGのみを投与した群(B)、ABTのみを投与した群(C)はどちらもがんの増殖が抑えられていますが、移植後50日目までにマウスはすべて死んでしまいました。しかし、2-DGとABTを組み合わせて投与した実験群(D)では、がん細胞体積の減少が見られました。さらに、グルコースと2-DGを混ぜて投与し、その後ABTを投与した実験群(E)では、投与終了後もがん細胞の増殖が抑えられ、多くのマウスががん細胞移植後50日以降も生存していました。これらの結果から、2-DGとABTという2つの薬剤の組み合わせた治療は、新たな化学療法になるものと期待しています。

【がん細胞を移植したマウスに2-DGとABTを投与した実験の結果】

前立腺がんの細胞を500個移植したマウスに、移植後9〜27日目の期間に2-DGとABTを単独または組み合わせて投与した。2-DGにグルコースを混ぜたものとABTを投与した実験群(E)では、がんの体積が減少しただけでなく、投与終了後もがん細胞の増殖が抑えられ、生存期間も延びた。