研究紹介

がん研究 スポットライト

光マンモグラフィーで、術前化学療法の効果を超早期に判定したい
新薬や高度な治療法の開発が進み、早期に発見し早期に治療開始できれば治るがんが増えている。上田助教は、がんを早期発見する診断手法として、近赤外光スペクトロスコピーを用いたイメージング法にいち早く注目し、近赤外分光法(生体内部の吸光特性を測定する方法)を用いた乳房のイメージングシステムを確立した。現在は、この装置を使い、乳がんの化学療法初期の段階で、事後の治療効果を予測しようと試みている。
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科 助教 上田重人
光を使ったがん診断技術

画像によるがん診断技術にはどのようなものがあるのでしょうか?

がんを診断するためのイメージング(可視化)技術には、大きく分けて2種類あります。1つは、X線や超音波を使ってがんの形態をとらえる方法で、1970年代から行われています。それに対して1990年代以降、がん組織の “機能”をとらえる技術が次々に登場しています。例えば、FDG-PETは、糖代謝をとらえます。がん細胞は正常細胞よりも糖代謝が活発なので、悪性腫瘍の存在がわかるのです。

機能をとらえる技術の中で、2000年代から注目されているのが、私が研究している「拡散光スペクトロスコピーイメージング」です。一般的には、「近赤外光イメージング」といわれており、その名の通り、650 〜1000 nmの波長の、色でいうと赤色光から近赤外光の光を生体組織に照射して内部の吸収特性を計測し、イメージ化する技術です。この光を組織内部で吸収・散乱する度合いが、正常細胞の組織とがん細胞の組織とで異なることを利用して、がんの診断を行います。この技術を使った乳房撮影を、通称「光マンモグラフィー」ということがあります。

どうして、光イメージングが注目されているのですか?

例えば、乳がんの診断では、普通、X線マンモグラフィーが行われます。マンモグラフィーとは、乳房と画像という言葉を合わせた造語で、X線を使って乳房の画像を撮る方法です。そのため、ごくわずかですが被爆があります。また、X線を透過させるために乳房を装置に挟むことが、患者さんにとっては苦痛となります。さらに問題なのは、若い女性の場合には、厚い乳腺が白く写ってしまい、がんの発見が難しいことです。これに比べると、光マンモグラフィーでは、近赤外光を照射し、乳房の中で吸収と散乱を繰り返して戻ってきた反射光をとらえるので、X線マンモグラフィーのような被爆や苦痛がありません。

【X線マンモグラフィーと光マンモグラフィーの違い】

X線は生体内を直進するため、がん組織を影としてとらえる。一方、光は生体内に入ると吸収と散乱を繰り返し、その一部が反射光として体表面に戻ってくる。これをとらえ、悪性腫瘍の情報を得る。


プロフィール
上田重人

上田 重人(うえだ・しげと)
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科 助教

2000年 防衛医科大学校医学部卒業。卒後、7年間外科医として臨床に従事。臨床のかたわら、がんの生体機能イメージングの研究を開始。
2007年 カリフォルニア大学アーバイン校ベックマンレーザー研究所に招聘研究員として在籍し、近赤外光スペクトロスコピーの基礎を学ぶ。現在はおもにPET(陽電子断層撮影法)や近赤外光イメージングを用いた乳がんの臨床研究に取り組む。
2011年 埼玉医科大学大学院(がんプロフェッショナル養成プラン)博士課程修了、医学博士。
2012年 埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科助教

注釈
【FDG-PET】
ブドウ糖類似物質で、γ線を放出するFDG(フルオロデオキシグルコース)を投与し、PET(陽電子断層撮影法)でFDGの集積を見るイメージング技術。