研究紹介

がん研究 スポットライト

光マンモグラフィーで、術前化学療法の効果を超早期に判定したい
化学療法の効果を超早期に予測する新たな試み

開発した装置で、一歩踏み込んだ診断を目指しているそうですね。

これまでの研究で、光マンモグラフィーによって、悪性腫瘍と正常組織を判別できることや薬の治療効果をモニターできることは確かめました。MRIやPETでは通常数か月程度でみられる腫瘍の変化を、光イメージングであれば数日〜数週間でとらえることができます(上のチャート)。さらに、この技術では組織の血液量や酸素化レベルの変化を精度よくとらえられるので、この特徴を活かして、乳がんの薬剤選択のための予測診断を行えたらと考え、研究を進めています。

乳がんに限りませんが、最近はがんの薬の選択肢が増えています。しかし、薬は患者さんによって効く場合と効かない場合があります。これは、がんの内因的・外因的な特性(遺伝や微小環境の違い)によるものですが、抗がん剤は患者さんの体に負担となるので、事前にその薬が効くかどうかを判断できることが望ましいのです。

現在は、「術前化学療法」に使う薬剤の効果を事前に予測できるかどうかを調べています。直径が3 cm以上の乳がんは、切除前に抗がん剤を投与してがんを小さくしてから手術を行うことが一般的になっています。これが術前化学療法です。術前化学療法に使われる薬のうちでも、私が注目しているのはベバシズマブ(商品名:アバスチン)です。

ベバシズマブは血管新生阻害薬で、術前化学療法では、パクリタキセルなどの抗がん剤と同時に投与する形でよく使われます。最近の研究で、ベバシズマブががんの血管新生を阻害すると、正常な血管が再構築されて血流がよくなるので、いっしょに投与した抗がん剤ががん組織に届きやすくなることがわかっています。しかし、ベバシズマブが単独で使われることはないため、その効果が患者さんによってどう違うかを評価するのは難しかったのです。

そこで、術前化学療法の1回目はベバシズマブを先に投与し、少し遅れて抗がん剤を投与するようにし、その間の経過を光マンモグラフィーで追跡しました。その後は、通常通り2剤を同時に投与しました。

下の図は、上は化学療法が効いた患者さん(奏功例)で、下は効かなかった患者さん(非奏功例)です。腫瘍の血液量の変化については、大きな違いはありませんでした。しかし、がん組織の酸素化レベルは、治療効果のあった患者さんでは最終的に高くなっていました。これは、正常な血管が再構築され、血流がよくなったことを意味しているのでしょう。ただし、酸素化レベルの変化の仕方は症例によって様々ですので、ベバシズマブの効き方は必ずしも同じではないと考えられます。

このように、血管新生阻害薬による乳がんの変化を詳しくとらえられることがわかったので、今後は早期の効果予測を目指して、より多くの症例を集め、詳細な解析を行う予定です。

【光マンモグラフィーによる血管新生阻害剤の効果の詳細な解析】

がん組織の血液量(各例の上段)と酸素化レベル(下段)の変化を、化学療法開始1日前をDay−1として、開始後1日、3日、6日、8日、13日(Day1、3、6、8、13)に測定した。青紫の三角はベバシズマブのみの投与、赤の三角はパクリタキセルのみの投与を行った時期を示す。これだけ頻繁に測定できるのは、光マンモグラフィーが被爆や造影剤の投与の必要ない安全で無侵襲、低コストの診断だからである。

光マンモグラフィーの実用化は近いのでしょうか?

研究段階にある近赤外光イメージングを今後どのような位置づけで臨床応用していくかということになりますが、まずは、ベッドサイドや外来などで、乳がんの診断や治療効果の評価に手軽に使ってもらえるようにしたいと思っています。私は埼玉医科大学国際医療センターで診察の際に、20分ほど時間をもらって検査を行っています。

こうして多くの患者さんのデータを蓄積していく中で、様々なことがわかってくると期待しています。一方で、総ヘモグロビン量が本当に血管新生を反映しているのかなど、生化学的にまだわかっていないことを解明する必要を感じています。さらにその先には、治療効果を簡便に評価できるという利点を活かして、新薬の開発に貢献したいと考えています。

上田 重人

TEXT:池田亜希子 PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年2月6日

注釈
【パクリタキセル】
タイヘイヨウイチイの樹皮から発見された抗がん剤。乳がんのほか、肺がん、胃がんなど様々ながんの治療に使われている。