研究紹介

がん研究 スポットライト

光マンモグラフィーで、術前化学療法の効果を超早期に判定したい
ベッドサイドで使用可能な光マンモグラフィーシステムを確立

光イメージングでは悪性腫瘍の何を見ているのでしょうか?

がん細胞は正常細胞よりもさかんに増殖しているため、栄養と酸素がたくさん必要です。そこで、「血管新生」といって、栄養と酸素を運ぶための血管を自らつくります。そのため、悪性腫瘍の血液量は正常組織よりも豊富になります。

近赤外光を利用すると、組織の血液量や酸素化の程度がわかります。近赤外光は生体を透過しますが、血液中のヘモグロビンは近赤外光を吸収するからです。さらにヘモグロビンには、酸素をもっている酸素化ヘモグロビンと、酸素をもっていない脱酸素化ヘモグロビンとがありますが、この2つは光の吸収がちがうので、区別することができます。

光イメージングで組織の血液量と酸素化のレベルがわかることが、あとでお話しするようにがんの診断にとても役立ちます。

光マンモグラフィーを研究されるようになったきっかけは?

私は臨床医のころから近赤外分光法による組織の計測に可能性を感じていたのですが、脳科学の分野でおもに研究が進んでおり、がん分野での研究はまだ注目されていませんでした。そのため、2009年、近赤外光分光法の技術開発が進んでいたベックマンレーザー研究所に留学しました(上の写真はそのときの一コマ)。この研究所は物理系・工学系研究者が多く在籍し、光を用いた生体計測(バイオフォトニクス)の研究をしています。医師の私は異質の存在でしたが、よい仲間に恵まれ、バイオフォトニクスの基礎を一から学ぶことができました。

このころ、日本では、浜松ホトニクスという会社が浜松医科大学と共同研究で光イメージング装置の開発にまさに乗り出していた時期であり、臨床応用に向けて試行錯誤をしていました。この会社は、光を増幅する「光電子増倍管」の高い技術をもっており、カミオカンデにも光電子増倍管による光計測技術が使われています。この光計測技術を応用した生体組織用の分光システムを導入し、近赤外光を照射・検出するプローブを新たに開発して、光イメージング用に対応させて装置を完成させることができました。

私も帰国後、ベッドサイドや外来診療で手軽に使える光イメージング装置の確立を考えていましたので、すぐに浜松ホトニクスに赴き、 この分光システムの導入をお願いしました。プローブはハンディータイプにしたので、乳房に押し当てれば簡単に計測できます。がんの形態を確認しながら操作できるように、超音波診断の検出部と組み合わせられるようにもしました。いちばん苦労したのは、データ解析を行うためのソフトウエア開発です。前例がないため、どのような解析が必要かを考えながら、ソフトウエアを設計しました。

【近赤外光イメージングシステムの確立】

時間分解分光器(TRS20、浜松ホトニクス)を導入した乳房イメージングシステム。上の写真は埼玉医科大学での設置・使用状況。下の写真の手前のプローブは光マンモグラフィー専用のもので、奥は超音波診断装置のプローブと合体したもの。その後ろにあるパソコンに、上田助教が苦労して開発したソフトウエアが収められている。

【近赤外光イメージングシステムによる測定】

病変部とその近くに点をプロットし、1つ1つ測定することにより、画像を得る。右の例では、乳がんの部分に、総ヘモグロビン量の高いホットスポット(赤い部分)が見られる。

注釈
【ベックマンレーザー研究所】
カルフォルニア大学アーバイン校にあり、バイオフォトニクスの研究開発を行っている。クリニックも併設されている。

【カミオカンデ】
ニュートリノの検出を目的として岐阜県神岡鉱山あとにつくられた装置。巨大な水槽の内側に多数の光電子増倍管が設置され、ニュートリノが水に入射したときに出る微弱な光をとらえる。この装置で宇宙ニュートリノをとらえた小柴昌俊博士は2002年にノーベル物理学賞を受賞。現在は、スーパーカミオカンデが使われている。