研究紹介

がん研究 スポットライト

ACFを標的とした大腸がんの化学予防
近年、日本人の大腸がんの罹患率が急増している。中でも、大腸ポリープをもつ人は、がんになるリスクが高く、その対策が急務だ。大腸がんの治療や研究をする高山教授は、化学予防という新たな大腸がんの予防法の確立を目指している。
徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 消化器内科学分野 教授 高山 哲治
効果的な化学予防のための標的は何か

化学予防とは、どんな予防法なのですか。

がんの予防は、従来1次予防と2次予防に分けられています。まず、1次予防はがんになるのを未然に防ぐことです。がんの原因の多くは、喫煙や飲酒、食事などの生活習慣にかかわることから、これらを改善してがんになるのを防ごうとします。2次予防は、検診によりがんを早期発見することです。がんが重症になる前の早い段階に、見つけて手を打ちます。これらの中間にあたる1.5次予防が化学予防です。がんの発生や再発を遅らせる作用のある薬剤を服用して、がんになるリスクを低くしようとするものです。

化学予防はアメリカで発案され、欧米を中心に研究が行われています。例えば、疫学研究などに基づいて、緑黄色野菜に含まれるβカロテンなどの臨床試験が行われてきました。しかし、化学予防の効果が明らかになるにはかなり大規模な調査が必要で、時間も必要です。予防効果が示された数少ない例としては、乳がん治療で使われるタモキシフェンやラロキシフェンがあります。これらは、乳がん予防効果が明らかになり、アメリカでは乳がんリスクの高い人に対しての予防薬として承認されています。

海外に比べ、日本ではがんの化学予防の研究はあまり進んでいません。けれども、診断や治療法の進歩にともない、最近はがんの化学予防という考えが重視されるようになってきました。

これまでどんな研究を行ってきたのですか。

化学予防の対象になるのは、大腸ポリープのような前がん病変をもつなどがんになるリスクの高いグループです。私が取り組んでいる大腸がんは、近年患者数が急増しており、日本人では胃がんに次いで2番目に多いがんです。多くの大腸がんは、大腸ポリープとよばれる良性の腫瘍(腺腫)から発生します。そこで、この大腸ポリープを評価対象として、欧米で化学予防の臨床試験が行われ、カルシウムや解熱鎮痛薬のアスピリン、消炎鎮痛薬のセレコキシブなどが大腸ポリープの発生を抑えることが報告されています。

【大腸ポリープからの発がん】

多くの大腸がんは、大腸ポリープ(腺腫)が悪性化することで大腸がんへ進むとされている。

【大腸がん化学予防の臨床試験の例】

多くの臨床試験の例があり、予防薬の長期投与によって、大腸ポリープの発生を抑制できる結果が出ている。

私たち研究グループでも、日本人を対象とした臨床研究を行い、大腸ポリープを切除した約300人の患者さんに、アスピリンまたは擬似薬を2年間飲んでもらい、ポリープの発生率を比べました。その結果、アスピリンがポリープの再発予防に有効であることが示されました。この知見は、大腸がんの化学予防法の確立を期待させるものですが、そのためには、副作用や投与量の検討など、詳細な検討が必要です。

また、大腸ポリープを標的とした臨床試験では、ポリープができるまでに時間がかかりますから臨床試験の期間が長くなります。長期間の薬剤投与は、副作用の出る可能性も高いし、被験者の負担も大きくなります。中には薬を飲むのを途中でやめてしまう方もいらっしゃいました。さらに、ポリープにはさまざまな大きさのものがあり、がんに近い大きなポリープは薬剤に反応しないのです。ですから、大腸ポリープ以外の標的が必要だと考えています。


プロフィール
高山 哲治

高山 哲治(たかやま・てつじ)
徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 消化器内科学分野 教授

1986年 札幌医科大学医学部卒、札幌医科大学研究生(内科学第四講座)
1991年 札幌医科大学大学院医学研究科博士課程修了、日鋼記念病院内科医師
1992年 米国アルバート・アインシュタイン医科大学 post-doctoral fellow
1995年 札幌医科大学内科学第四講座助手
2001年 同講師
2005年 同准教授
2007年 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部臓器病態治療医学(消化器内科学分野)教授