研究紹介

がん研究 スポットライト

ACFを標的とした大腸がんの化学予防
新しい予防薬も開発し、臨床応用を目指す

ACFを標的にすると、短期間で臨床試験ができる以外にどんなメリットがありますか。

試験管レベルで薬剤の効果を解析することができます。ACFのある大腸組織を特殊な技術で培養し、そこに臨床試験で効果があったスリンダクを添加するとアポトーシス(細胞死)を誘導できました(上の写真)。この結果から、ACFのアポトーシス誘導活性を評価することで薬剤の効果を判定できることがわかりました。大規模な臨床試験を行う前に、試験管内で試験を行うことができます。

さらに、私たちは、解毒酵素の一種であるGST-π(グルタチオンS-トランスフェラーゼ-π)に注目しています。私たちは以前、大腸がんや大腸ポリープでGST-πの発現が増加し、正常な組織では発現していないことを報告しましたが、ACFでも発現していることがわかりました。この酵素は大腸がんが発生する過程のかなり早い段階からK-rasの変異により発現し、細胞の増殖を促し、アポトーシスを抑えることが示唆されています。そこで、ACFの形成や腫瘍化に重要な役割をもつGST-πを選択的に阻害する薬を開発すれば、大腸がんの予防薬になると考えています。アメリカの会社と共同で、GST-π阻害剤を開発し、ラット大腸がん発がんモデルに投与したところ、ACFやがんの発生を抑えることが明らかになりました。

ACFを標的にすると短期間で効果を判定できるので、このような新しい予防薬の開発にもとても有効です。ただ、ACFは微小な組織なため、慣れないと観察しにくい面もあります。そのため、より鮮明に観察できるような拡大内視鏡をメーカーと共同で開発したり、ACFに発現するGST-πを蛍光色素で光らせるシステムをつくったりしています。このシステムを使えばACFだけが光るので、見つけやすくなります。

ACFに対する関心は高く、国内のみならず海外からも問い合わせがあります。こうした観察方法もより早く応用することで、ACFを標的とした大腸がんの化学予防臨床試験を広めていきたいと思っています。

【K-ras変異によりGST-πが誘導される】

K-ras遺伝子の変異によって、GST-πの発現が誘導される。GST-πを阻害すると、発がんを予防できる。

ACFを指標とした臨床試験を広めるためにどんなことをしていますか。

私たちは、ACFの見方や評価の仕方を指導したり、臨床試験の立案から実施までをサポートしたりしています。いま、いくつかの機関でACFを標的とした臨床試験が計画されています。

また、「がん疫学・予防支援活動」では、ヒトを対象とした長期追跡研究を支援しています。たとえば、コーホート研究の体制の強化やコーホート研究から収集された生体試料を利用して、外部のがん研究者に研究支援をする体制を整えるなどさまざまな活動をしていますが、その中のがん予防介入研究では、 GST-π阻害剤などを用いた大腸がん予防の介入研究というものがあり、こちらでも積極的に予防試験を進めています。また、前述の通り発がん予防薬としての候補物質のスクリーニングを行い、がん研究を支援しています。このような支援活動を通して、1日も早い大腸がんの化学予防法の確立を目指していきます。

赤座 英之

TEXT:佐藤 成美 PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年8月20日