研究紹介

がん研究 スポットライト

ACFを標的とした大腸がんの化学予防
ポリープの前の段階に着目し、標的としての有効性を証明

大腸がんの化学予防の標的として、何か別のものがあるのでしょうか。

私たちが化学予防の指標として提案しているのがACF(異常陰窩巣、aberrant crypt foci)です。これは、メチレンブルーという色素に強く染まるので、大腸を内視鏡で観察するときにこの色素を散布します(上の写真)。ACFは1mm以下の微小な病変ですが、拡大内視鏡を使うと観察することができます。拡大内視鏡は、内視鏡と顕微鏡を合体させたようなもので、通常の内視鏡に比べてより細密に組織を見ることができます。

【ACFの観察】

ACFはメチレンブルーという青色色素によって染まる。拡大内視鏡によって拡大すると見える(左)。異常な腺管(陰窩)の集まり(右)。

多くの人について解析をしたところ、大腸がんの手術をした人や大腸ポリープを切除した人の大腸粘膜にACFが観察されることや、大腸ポリープの数が多い人ほどACFの数が多いことがわかりました。大腸がんでは、がん遺伝子であるK-rasが変異すると、ポリープが大きくなり悪性度が増すことがわかっていますが、ACFでも高い割合でK-rasが変異していました。そこで私たちは、ACFからポリープを経て大腸がんが発生すると仮説をたてました。そして、ACFは大腸がんの化学予防の標的に有効だと考えました。ACFは短期間で変化するので、薬剤の効果判定までの時間が短くなります。このため、副作用のリスクも少なくてすみますし、被験者の負担も軽減できます。

【大腸がん化学予防の臨床試験の例】

大腸がん発生の原因として、K-ras、APC、p53などの遺伝子の変異の蓄積がある。

そこで、大腸ポリープ切除後でACFを持つ人360人を対象に、スリンダクとエトドラクというリウマチ薬の化学予防効果を検証しました。これらの薬剤を選んだのは、リウマチの患者さんは大腸がんが少ないことが知られており、長期にわたり服用しているリウマチ薬に大腸がん再発予防効果があるのではないかと考えられたためです。この試験では、被験者に2ヵ月間薬を飲んでもらい、2ヵ月後に大腸を観察しました。すると薬を服用した人ではACFの数の減少が観察され、わずか2ヵ月で消えている人もいました。また、1年後のポリープの発生頻度や数は少ない傾向がありました。副作用もほとんどなく、短期間で薬の効果が確認されたことから、ACFは大腸がん化学予防の標的として有効なことが認められました。

【治療前と2ヵ月後のACF数の変化】

スリンダクやエトドラクを2ヵ月間投与すると、ACFの数が減少した。

【1年後の大腸ポリープの発生率】

スリンダクの投与により、大腸ポリープ(腺腫)の再発が抑えられた。