研究紹介

がん研究 スポットライト

病理画像をデータ化して予後診断や新たながん治療に役立てたい
生体内で捕らえた「転移の芽」

「転移の芽」についてより具体的に教えてください。

「転移の芽」をうまく捕らえた実験はこれまであまりありませんでした。実際の患者さんの体内で転移を起こす瞬間をとらえることは非現実的です。そこで私たちは、乳がんの患者さんからがん組織をいただいてマウスの乳腺領域に移植しました。移植されたがん組織は、やがてマウスの乳腺領域に腫瘍を作るだけでなく、肺や肝臓などの臓器にも目に見えないくらいの微小な転移をしていることがわかりました。この実験モデルは、実際の転移と同様に、腫瘍組織から離脱したがん細胞が血流に乗って全身に広がったのちに非常に微小な初期転移を形成する過程を、実際のがん手術検体を用いて解析できるという特徴をもっています。

このような「転移の芽」としてのがん細胞を解析することで、将来再発する可能性をもちながら患者さんの体内で潜在している転移がん細胞の性質が分かるのではと考えています。

【ヒト乳がん移植モデルを用いた肺転移巣の検出】
Detection of Spontaneous Lung Metastases of Breast Tumor Xenografts

PNAS (2010) 107:18115-18120 を改変

左上:ヒト乳がん組織の移植によりできた腫瘍(矢印)。
右上:肺に転移した腫瘍の発光イメージング。
下:原発巣と肺の小転移巣の組織像(x200)。


「転移」と聞くと細胞が激しく増殖するイメージが浮かびます。

転移したがん細胞というのは生着した場所でものすごく速く増殖すると思われがちですが、私たちの生体モデルでは、転移がん細胞は非常にゆっくりと増殖していることがわかりました。詳しくみていくと、生体モデルにできた転移がん細胞のうちで6〜7割くらいは休眠状態にあって、セルサイクル(細胞周期)が回っていないことがわかったのです。

この休眠状態にある細胞が、いつ、どんなきっかけで激しい増殖を始めるのか? それがわかれば、そのタイミングが訪れる前の「転移の芽」のうちに薬でたたくなどの有効な治療につながるのではないかと考えています。

【CXCR4を介した転移がん幹細胞の休眠化機構】

臓器に転移したがん細胞を単細胞レベルで遺伝子発現解析した。細胞増殖を反映するMKI-67の発現と細胞表面レセプターCXCR4の発現に相関を認めた。

PLoS One(2015)10:e0130032を改変

CXCR4の発現が低下しているHLA発現ヒト乳がん細胞集団(赤の四角)では、セルサイクル(細胞周期)の進行が抑制されていた。

【ヒト乳がん移植モデルでみられる微小初期転移巣】
Deteciton of the Metastases of Human Breast Cancer Xenograft by Immunohistochemistry

ヒトの乳がん組織の移植によりできたがん原発巣(左)から離脱して、臓器に生着した転移がん細胞(緑色)(矢印)。転移の初期段階にある「転移の芽」に該当すると考えられる。