研究紹介

がん研究 スポットライト

新規クルクミン誘導体に潜む分子標的薬への可能性を追求したい
さまざまな疾病の予防・治療対策への可能性が拡がるクルクミン誘導体

大腸がん以外のがんにも抗腫瘍活性が期待できそうです。

これまでにいろいろながん細胞で試してきて、抗腫瘍活性があるというデータは出ていますが、重点的にやったのは大腸がん以外では多発性骨髄腫、胃がんです。我々と共同研究中のオハイオ大学からは「がん幹細胞もよく抑える」というデータが出されています。がん幹細胞を維持するのに関係するSTAD3という分子の、酵素としての活性は我々の化合物のほうがより効くというデータがだされ、分子標的制御することがわかってきています。さらに最近では、血管新生を抑えるという働きもクルクミン誘導体にあることがわかってきています。がんを抑える一つとして、血管新生阻害剤が臨床でも使われはじめていますが、そうしたことへの期待もふくらみます。

また、家族性大腸腺腫症のモデルマウスに食べさせたらポリープ(前がん病変)がなくなったというデータも出ています。できたがんを殺す・抑えるというはたらきにくわえ、もう一つ「がんになりにくくなる」こともモデル動物の段階でわかってきているのです。ただ「予防」となると健康体の人が摂取するわけで、毒性がきわめて低くないといけません。クルクミンががんになる最初のステップであるβカテニンを分解するという理論からいえば、多少薬効が低くくても、飲むことでがんの予防になるかもしれない。実際、クルクミン研究にかかわる人たちは自分も含めてウコンを飲んでいる人が多いんですよ。

【増殖抑制活性の増強】

クルクミンアナローグ(誘導体)が天然のクルクミン(DCCP)よりも、また5FCやシスプラチン、CPT11といった既存の抗がん剤よりもはるかに低い濃度で抗腫瘍活性している(IC50値)

【がん幹細胞に効くスーパークルクミン】

Stat3(がん幹細胞の増殖に必要な分子)が活性化される部位にGO-Y030が結合して、その活性化を抑えている。

いろいろな意味でクルクミンは注目されていますね。

まだまだ注目度が足りないかなと思っているほどです。がんから少し離れますが、実はクルクミン誘導体にはトリパノソーマという「眠り病」の原因であるアフリカの原虫の増殖を抑える働きがあることもわかってきています。この病気は一部の開発途上国では重大な問題です。さらに、まだ基礎研究のレベルとはいえ放射線や紫外線、場合によっては抗がん剤による組織のダメージを防御するはたらきもクルクミンはもっています。がんと炎症とは似た部分があり、cox2とかNF-Κ(カッパ)Bといった炎症がん関連の分子をクルクミンが抑えます。

【NF-ΚBシグナルの核移行の抑制能の向上】

新薬開発をすすめるうえでの課題はなんですか?

動物実験でのデータをたくさん出すために、化合物の量を確保することが最大の課題です。私が秋田大学に移って以降、東北大学薬学部だけに依頼するのも限界があり、いろいろなところで話をしたところ、大量合成をしてもらえる企業が出てきました。量が確保できれば、共同研究している海外の研究室にもたくさん送ることができます。

個人的な課題としては、地域のがん医療に貢献するため秋田大に移って4年目、腫瘍内科医としての診療及び化学療法部での治療の審査監督のほか大学院生への指導もあって、研究にさく時間がなかなかとれないことです。大学内の基礎研究の先生や、がん以外での薬理効果も実用可能かどうかをみるために皮膚科や放射線関連の先生とも仕事をしたりと、大学の内外からのご協力も得ていますが、時間もマンパワーももっと欲しいところ。幸いにもJST(独立行政法人科学技術振興機構)の支援で海外(現在はアメリカのみ)へのパテント申請もできたので、あとは国内の製薬メーカーなど民間企業との研究ができたらいいと思います。まだ越えなくてならないハードルがたくさんありますが、我々の研究に関心をもたれた方がおられたら、ぜひともご連絡をいただきたいです。

メール:hiroyuki@med.akita-u.ac.jp

柴田浩行

TEXT:冨田ひろみ PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年1月24日

注釈
膵がんと大腸がんのステムセル(幹細胞)で抗腫瘍活性があったと発表した機関もある
【トリパノソーマ(Trypanosoma)】
アフリカの風土病「眠り病(別名アフリカ睡眠病)」の病原体として恐れられる原生生物。吸血性のツェツェバエを媒介として人畜に寄生。