研究紹介

がん研究 スポットライト

独自に作製したヒト化マウスを使ってエイズ関連悪性リンパ腫を研究
高度免疫不全マウスの樹立とそれによる大きな成果

ヒト化マウスはどのように作製したのでしょうか?

まず、「高度免疫不全マウス」をつくるところから始めました。免疫不全マウスとは、免疫機能を失ったマウスのことで、すでにいくつか樹立されています。例えば、よく使われているヌードマウスは、免疫細胞のうちT細胞と、T細胞が関係するB細胞反応(T細胞依存性抗体産生)を失っています。このため、病原体などが外界から侵入しても、それを攻撃する抗体をつくることができません。しかし、NK細胞やマクロファージなどは存在しているので、完全な免疫不全というわけではありません。そこで私たちは、T細胞やB細胞だけでなく、NK細胞やマクロファージもないマウスをつくろうと思ったのです。

すでに樹立されていたNOD/Scidマウスという免疫不全マウスと、Jak3という遺伝子が欠損しているためにNK細胞をつくることのできないマウスを10世代かけ合わせました。かけ合わせだけでも時間のかかる大変な作業だった上に、途中、生まれてきたマウスが弱くてなかなか育たないといったトラブルもありましたが、ついにJak3遺伝子を欠損したNOD/Scidマウス「NOD/Scid Jak3欠損マウス(NOJマウス)」を樹立することができました。これは、T細胞・B細胞・NK細胞・NKT細胞がなく、補体活性が失われており、マクロファージと樹状細胞の機能に異常がある「高度免疫不全マウス」です。

これまでの免疫不全マウスとの違いを教えて下さい。

高度な免疫不全ということは、ヒト細胞をマウスの体内に移植してヒト化マウスをつくりやすいということです。これまでの免疫不全マウスには免疫機能が一部残っているため、ヒト細胞を移植しようとしてもマウスの免疫細胞の攻撃を受けるために、生着率は非常に低かったのです。しかし、NOJマウスでは、免疫細胞がほとんど失われているため、高い生着率を示します。また、生まれたばかりのマウスの全身に放射線を照射して、元々あるマウスの細胞を破壊しておくことで、ヒト細胞の生着率は格段に高くなります。NOJマウスには、ヒトの造血細胞やがん細胞は効率よく生着しますので、ヒト化マウスとヒトがんのマウスモデルがつくりやすくなりました。

どのような研究成果があがっているのでしょうか?

NOJマウスにヒト末梢血単核球または臍帯血由来CD34陽性細胞(造血幹細胞)を移植しておき、これらのマウスにHIVを感染させてエイズモデルマウスをつくりました。先に話しましたように、HIVはマウスには感染しませんが、血液がヒトの細胞に入れ替わったヒト化マウスなら感染します。このマウスに、新しい抗HIV薬として注目されているEFdAを投与しました。その結果、HIVが増えていないかなどを指標に、薬の効果や副作用を評価できるようになりました。

【エイズモデルマウスの作製法】

エイズ関連悪性リンパ腫についても、NOJマウスにヒト原発性滲出性リンパ腫の細胞株を移植することで、モデルマウスをつくることができました。このマウスは、ヒトの患者さんと同様に腹腔内に腹水がたまり、その量によって薬剤の治療効果を評価できることがわかりました。

薬剤の1つとして、ベバシズマブを評価しました。原発性滲出性リンパ腫ではVEGFというタンパク質が多くつくられ、血管の透過性亢進に働いています。ベバシズマブは、このVEGFを阻害する抗体医薬で、すでに大腸がんや非小細胞肺がんの治療薬として承認されています。ベバシズマブの投与によってモデルマウスの腹水量が減ったことから、ベバシズマブが悪性リンパ腫のよい治療薬になるのではないかと期待しています。

【ヒト原発性滲出性リンパ腫細胞移植マウスを用いた薬剤評価】

ヒト原発性滲出性リンパ腫細胞(BCBL-1)を移植してエイズ関連悪性リンパ腫のマウスモデルを作製し、移植後3日目から、週に2回ベバシズマブを投与。左下の組織写真で、H&Eはヘマトキシリン・エオジン染色、LANAは原発性滲出性リンパ腫に特異的なウイルスタンパク質の染色。肝臓、肺、脾臓の各組織で、LANA染色で茶色に染まったリンパ腫の細胞が減っており、改善が見られた。右のグラフでは、腹水もほとんどなくなっており、治療効果があったといえる。PBSは対照用の緩衝液。

ベバシズマブの他に、CD47というタンパク質の抗体でも、腹水量が大幅に減ることが確認できました。CD47は、がん細胞の表面にあって、マクロファージに食べられないように自分を守るシグナルになっています。このタンパク質の働きを抗体で抑えると、マクロファージががん細胞を食べてくれるようになります。(このページのトップ写真はCD47抗体の投与により、マクロファージががん細胞を食べているようす)。このように、エイズ関連悪性リンパ腫のマウスモデルを使うと、薬剤の効果や副作用を個体レベルで調べることができ、治療標的を絞り込むことができます。

注釈
【EFdA】
エイズ治療薬の開発で知られる熊本大学生命科学研究部の満屋裕明教授が合成。薬剤耐性HIVに強い効果があると期待され、米国で臨床試験が行われている。