研究紹介

がん研究 スポットライト

ELAS1のアポトーシス亢進能を応用し新規がん治療の開拓を目指す
カテーテルによる「がん遺伝子治療」の実現を目指して

ELAS1とカテーテル治療を組み合わせたアイディアがあるそうですね?

ELAS1がペプチドであるゆえにもつ大きな問題が癌組織への「運搬」(drug delivery)でした。その欠点を補ってくれるのが腫瘍溶解性ウイルス(OV)を用いての癌遺伝子治療ではないかと考えます。

腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、遺伝子操作したアデノウィルスや単純ヘルペスウイルスが正常細胞では増殖せず、癌細胞のみに感染して爆発的に増殖し、やがて癌細胞を破壊してしまうというものです。現在、臨床試験が岡山大学や東京大学を中心にして進んでいます。ただし、OVは、点滴により体内に入れますとヒトの持つ免疫によってウイルスは速やかに死滅してしまいます(だからこそ安全性が高いのですが)。患部に直接感染させるのは、体内の奥深い部位では困難です。

そこで私が推奨したいのが「癌カテーテル遺伝子治療法」と呼ぶ技術です。心筋梗塞や脳外科などで用いられる血管カテーテル治療はご存知だと思いますが、日本の臨床医は非常に高度な技術をもっています。このカテーテル治療を応用すれば、血管のあるところにどこでも到達でき、そこで極微小噴霧器を用いてウイルスを感染させればよいのです。これによって日本から世界に発信できる新たながん治療の展望が生まれると確信しています。

具体的には、足の付け根(鼠径部)の大腿動静脈にカテーテルを挿入し、血管をたどって癌組織に近づき、ELAS1を装備した腫瘍溶解性ウイルスを噴霧します。下図が治療の具体的なイメージです。正常細胞では増殖しない、この安全なウイルスにELAS1を組み込んで発現させることを理想とします。血管がある場所なら体内のどこでも到達できて、治療が可能になるというわけです。例えば、治療が困難とされる膵臓がんの治療にも大いに活かせるのではないでしょうか?

ただ、国内の医療事情を考えると実用化へのハードルはかなり高いですね。検討してくれるのであれば、私はどの国でもいいのですが、カテーテル治療における技術力の高さを考えれば、やはりいちばん求めたいのは国内での実用化です。

次世代腫瘍溶解性ウイルス(Super oncolytic virus: SOV)による「癌カテーテル遺伝子治療法」の開発を目指した研究

これが実現したら画期的な治療法になりますね

そう思います。この研究はまだ緒に就いたばかりですが、実は大きな問題が間近に迫っているのです。私はあと1年余りで定年を迎えるのですが、その時点で研究室を閉鎖しなくてはなりません。私が所属する阪大微研のルールとして、研究室を閉じるとは、研究室を物理的に空にし、スタッフも異動させることを意味します。現在、私の研究室では3つのプロジェクト(研究テーマ)を動かしていて、ELAS1研究はそのうちの1つです。現在いるスタッフは別のテーマを研究していて引き継げなくて、これまで私の研究を手伝ってくれてきた大学院生は2015年春に卒業して就職しました。このまま何も手を打たないでいると、ELAS1の研究は道半ばで断念し、冷凍庫に保存してあるELAS1も廃棄の運命です。

もちろん本来なら、私自身が定年後もELAS1の研究を継続できればいいのですが、現状では手立てがなくて厳しいところです。幸いなことに今回「挑戦的萌芽」として研究費取得が認められて元気づけられたこともあり、残る1年半を頑張って研究に取り組むつもりですが、もしELAS1に興味をもたれた方や、今後の研究活動のためによいアイディアをお持ちの方がおられたら、ぜひとも私にアドバイスいただきたいと切に願っております。

野島 博

TEXT:冨田ひろみ PHOTO:岩上 紗亜耶
取材日:2015年9月17日