研究紹介

がん研究 スポットライト

ELAS1のアポトーシス亢進能を応用し新規がん治療の開拓を目指す
ELAS1がもつ新たな分子標的薬としての可能性

ELAS1は放射線治療を変える可能性があるそうですが?

これは放射線専門医から聞いたのですが、がんの放射線治療を受けられる機会は原則として生涯で一度のみだそうですね。もちろん一度といっても、例えばトータル70グレイを一度に照射すれば人体にかなりの負担になりますから、数十回に分割して照射するわけです。私たちの実験では、ELAS1を投与すれば10分の1程度の低線量放射線でも同等のアポトーシス誘導能を示すことがわかりました。ELAS1が放射線の感受性を高めてくれるのです。原理的には放射線治療の機会が複数回もてる可能性を示唆します。

下に示した実験は肉腫の癌細胞を用いた結果ですが、現在、前立腺癌細胞(DU-145)を用いても実験中で、こちらも同様の結果が得られています。

ELAS1の利点1

骨肉腫の癌細胞(U2OS)にγ線を72時間照射した際、ELAS1の投与の有無による放射線治療の感受性の違いをみた。ELAS1の投与により得られた1グレイの殺傷効果が投与なしの10グレイとほぼ同じになるという結果を示す。対照として用いたELAS2は作用しない。

ELAS1併用で抗がん剤も低濃度でアポトーシス誘導するそうですね?

これは、放射線治療と同様の、DNA二重鎖切断(DSB:double-strand break)を起こすタイプの抗がん剤に限定されますが、ELAS1を併用すると、低濃度でも治療効果が期待できることが実験でわかりました。抗がん剤治療での最大の問題は副作用ですから、ELAS1を抗がん剤と同時投与することで、少量でも癌細胞をアポトーシス誘導し副作用を軽減できるのです。これは、細胞増殖と無関係に作用するので、がん幹細胞に対しても同様にアポトーシス誘導に導くと期待できます。

ELAS1の利点2

上はELAS1の投与の有無による抗がん剤の感受性を比較。ELAS1の併用投与によりイリノテカンで1/5、カンプトテシンでは1/40の量で十分に癌細胞(U2OS)を殺せることになり副作用の大幅な軽減が期待できる

現在、論文発表への準備中のためここでは詳細なデータは出せませんが、私たちがノックアウトマウス群(CycG1-/-、CycG2-/-、CycG1-/-CycG2-/-KOマウス)を作製して観察を続けたところ、いずれも正常に子孫が誕生・生育して繁栄させています。このことから、ELAS1の過剰発現による阻害作用は、安全性が高いことを示唆しています。