研究紹介

がん研究 スポットライト

長鎖ncRNAを、放射線治療の効果予測マーカーに用いる
敬遠されがちな長鎖ncRNA研究を続ける

解析では、どのような工夫をされていますか?

RNAは化学的に不安定な分子なので、長鎖ncRNAの解析は容易ではありません。私は、患者さんから取り出されたがん組織をホルマリンで固め、パラフィンに包埋したFFPE検体を用いていますが、FFPE検体からRNAを検出するのはとくに難しいとされています。これまで、うまく解析できているのは、適切な抽出キットの選別はもちろん、試薬調整やプライマー設計も工夫し、定量PCRを、品質的にやや不良な長鎖ncRNA でも高精度に検出できるように独自で改良したからだと思います。

マーカー以外にも、臨床への応用は考えられるでしょうか?

今後市場にたくさん出てくると考えられている核酸医薬の大部分はncRNAですので、長鎖ncRNAを含めたncRNA研究の発展は、核酸医薬の開発に役立つかもしれません。私は、細胞環境の後天的な変化が、長鎖ncRNAを介して遺伝子調節能を変化させ、それががん化の一因になるのではないかと考えています。

「環境変化→長鎖ncRNAの発現変化や細胞内動態変化→調節能異常→がん化→環境変化→長鎖ncRNAの発現変化や細胞内動態変化→調節能異常…..」の病態サイクルがまわりだすと、なかなか止めることができなくなるのではないでしょうか。RNAを用いる核酸医薬は、このサイクルに直接介入できる点で、インパクトが大きいといえます。もし、XISTが薬剤として使えるようなことになれば、発現の低い患者さんに事前投与して放射線治療に入ることで、誰もが高い治療効果が得られるようになるかもしれません。

【今後医薬品市場において増加が予想される核酸医薬の大部分はncRNAである】

今後の予定や目標は?

29歳で東大医学部に着任し、2年後に医学部附属病院に移って約1年です。本プロジェクトのメンバーとしても2年目ですので、研究はまだまだ途上段階にあります。現在は、XISTの発現のちがいによって、放射線を受けたがん細胞の挙動にどのような差がもたらされるのかを分子レベルで検討しているところです。一方で、放射線治療効果のマーカーとなり得る新たな長鎖ncRNAの探索も続けています。候補がたくさん出てくれば、共通した分子基盤も見えてくると考えています。

長鎖ncRNA研究はリスクが大きいと考える研究者もいますが、私は独自の視点で、この分野に挑戦し続けていきたいと考えています。


TEXT:西村尚子 PHOTO:岩上 紗亜耶
取材日:2015年11月5日