研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞を長波長で赤く光らせ、生きたまま体外から観察する
今や、転移のない原発がんの多くは治る時代になり、残る課題は、転移をいかに防ぎ、転移したがんをいかに治療するかという点にある。電気通信大学の牧 昌次郎助教らは、ホタル由来の発光基質を改変することで、長波長の赤い光を出す化合物を作ることに成功した。この化合物を使って、実験動物の体内に作らせたがん細胞を光らせると、がんが成長して転移する様子を体外から観察することができるという。
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 助教 牧 昌次郎
有機合成を原点に、発光材料開発へ

ホタル由来の発光物質の基質開発を始められたきっかけは?

私は慶應義塾大学理工学部化学科の出身で、有機合成が専門です。ここへ来る前は、薬学部で医薬品の合成研究に携わっていました。16年前に、生物発光の研究を続ける電通大の丹羽 治樹 教授の研究室に赴任してきました。

ここでも、しばらくは有機合成をしていたのですが、5年ほど前にNEDOの「ダイナミックバイオ」というプロジェクトに参画することになり、組織や細胞を標識するホタル由来の材料を開発することになりました。そこではじめて、私も発光物質の基質研究を行うことになったのです。

生物由来の発光基質研究は、手がつけられていなかったそうですね。

はい、私たちが第一号ではないかと思います。ホタル由来の発光基質である「ルシフェリン」は、発光酵素「ルシフェラーゼ」と化学反応することで黄色く光ります。この反応は、すでに世界中で生化学研究等に広く使われていますが、緑がかった黄色、ただ一色にしか光りません。ホタル以外では、クラゲやウミホタルなどの発光物質も用いられていますが、やはり天然のまま単色で使われており、人工材料化されていません。
なんとかして他の色(すなわち他の波長)に変換させようと、世界中で、バイオテクノロジーを用いた酵素の改変研究が行われているのですが、基質を改変する試みはほとんどされていませんでした。私たちは、ダイナミックバイオプロジェクトにおいて、「基質を改変することで、より短波長の青い光を出す低分子化合物を開発してほしい」との要請を受けました。短波長の光はエネルギーが大きいので、その光をほかの物に移し、そこから異なる波長を出させるといった応用が考えられます。

プロフィール
牧 昌次郎

牧 昌次郎(まき しょうじろう)

平成元年3月
慶應義塾大学理工学部化学科卒業
平成6年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程修了(博士(理学)取得)
平成4年11月〜平成5年1月まで
独国 Max Planck 生物化学研究所研究員(細胞生物学研究室でmRNAのラベル化材料の合成・開発と生細胞内動態の可視化研究に従事)
平成5年4月
日本学術振興会特別研究員
平成6年4月〜平成8年9月
帝京大学薬学部助手
平成8年7月〜平成8年8月まで
独国 Max Planck 生物化学研究所客員研究員(細胞生物学研究室でmRNAのラベル化と生細胞内動態の可視化研究に従事)
平成8年10月〜現在
電気通信大学助手(助教、職名変更)
平成11年5月〜平成12年1月
Columbia大学化学科博士研究員(視覚の分子機構解明研究に従事、)
平成17年6月
有機電子移動化学奨励賞
受賞講演題目:「ホタル発光系をモデルとした人工発光標識系創製へのアプローチ」
平成24年1月
優秀教員賞(電気通信大学)「長波長ホタル発光材料の創製と実用化ほか」