研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞の正常化を促す、白血病の新しい治療法を開発する
骨髄移植の普及によって白血病は不治の病ではなくなったが、現行の治療法で治る人がいる一方、残念ながら治らない人もいる。白血病の化学療法には、がん細胞を正常な細胞に戻すというほかのがんにはないユニークな「分化誘導療法」という治療法が存在する。幸谷准教授は、難治性の白血病にも効く新しい分化誘導療法の開発を目指し、基礎研究を進めている。
東海大学医学部 基盤診療系 再生医療科学 造血腫瘍分野 准教授 幸谷 愛
未熟な血液細胞を分化させて白血病を治す

そもそも白血病とはどのような病気でしょうか。

白血病とは、血液細胞が未熟なまま異常に増殖してしまう、いわゆる「血液のがん」です。医学的には、①血液細胞の増殖が止まらなくなる、②血液細胞が未熟なまま分化が止まる、という2つの異常が生じることで発症すると考えられています。

「白血病」と一口に言っても、発症の仕方や進行具合などによって、30〜40種類に分けられます。白血病の種類によって性質が異なるので、骨髄移植で治る患者さんもいれば、残念ながら治らない患者さんもいるのです。骨髄移植は免疫の力で病気を治すものですが、それだけではすべての白血病の患者さんを救うことはできません。そこで、免疫ではない別の角度から白血病を治せないかと思い、基礎研究を始めました。

どのような治療法の開発を目指しているのですか?

先述のとおり、白血病は、①血液細胞の増殖が止まらなくなる、②血液細胞が未熟なまま分化が止まる、という2つの条件が揃うことで発症します。したがって、細胞の増殖を止める、あるいは、細胞の分化を促すことが白血病の治療につながります。

白血病の化学療法としては、ほかのがんと同様に、抗がん剤を投与することによってがん細胞を死滅させる方法がありますが、白血病に特有の「分化誘導療法」というユニークな治療法があります。これは、レチノイン酸(ビタミンAの誘導体)という分化誘導剤を使って、分化がストップしたがん細胞を正常に戻すように働きかける治療法です。臨床医として白血病患者の治療にあたっていた頃、治らなかった患者さんが分化誘導療法によって治るのを目の当たりにして、この方法に可能性を感じました。ただし、レチノイン酸が効くのは、たくさんある白血病の中のたった1種類だけです。そこで、私たちはレチノイン酸以外に分化誘導機能のある物質を探索しました。

がん細胞の分化誘導を促す物質はどのようにして見つけるのですか?

私が学位を取得し、もうしばらく研究をしたいと基礎の研究室でポスドクを始めたのは、ちょうどヒトゲノムが解読された2003年頃でした。ヒトとマウスで、遺伝子をコードする領域はほとんど同じであるという報告に、衝撃を受けたのを覚えています。ヒトとマウスの差は何によって生じるのだろう。その答えの1つがノンコーディングRNAです。

一般的に遺伝子は、DNA→RNA→タンパク質(DNA→RNAは「転写」、RNA→タンパク質は「翻訳」という)という流れで働きますが、DNAが転写されてできたRNAのすべてがタンパク質に翻訳されるわけではなく、翻訳されるのはごく一部だけです。このほかの、タンパク質にならないRNAをノンコーディングRNAといいます。これまでノンコーディングRNAをコードするDNAは「ゲノムのゴミ」であると考えられてきましたが、最近の研究からノンコーディングRNAは生物学的に重要な機能をもつことがわかってきており、細胞の分化にも関与していることが報告されています。私たちは、ノンコーディングRNAの一種である小分子RNAに注目し、分化誘導機能をもつものを見つけようと研究を進めています。


プロフィール
幸谷 愛

幸谷 愛(こうたに・あい)
東海大学医学部 基盤診療系 再生医療科学 造血腫瘍分野 准教授

1996年 京都大学医学部卒業
1997年 静岡市立静岡病院血液免疫内科研修医
2003年 京都大学医学研究科博士課程修了、医学博士
2003年 学術振興会特別研究員(PD)
2007年 学術振興会出産育児復帰支援特別研究員(RPD)
2008年 東京大学医科学研究所先端医療研究センター血液腫瘍内科助教
2011年 東海大学創造科学技術研究機構医学部門特任准教授
2012年 JSTさきがけ研究者兼任
2013年 東海大学医学部基盤診療学系再生医療科学専任准教授

注釈
【小分子RNA】
ノンコーディングRNAの一種で、細胞内に存在する長さ20から25塩基ほどのRNAをいう。