研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞の正常化を促す、白血病の新しい治療法を開発する
小分子RNAの探索

研究の成果はいかがですか?

期待通り、がん細胞の分化を誘導する小分子RNAが見つかってきています。

私たちは、白血病の中でも非常に予後の悪いMLL-AF4急性白血病の細胞と、抗がん剤がよく効いて約90%は治る白血病の細胞とで、小分子RNAの発現レベル(どれだけつくられているか)を比較して、MLL-AF4急性白血病細胞のほうで発現レベルが落ちているものを何個か選び出しました。それらを実際にMLL-AF4急性白血病の細胞に与え、分化が進むかどうかを調べると、完全な正常細胞とまではいきませんが、未熟な白血球からB細胞へと分化を推し進めるmiR-126という小分子RNAを見つけることができました。

【miR-126の分化誘導能】

白血病細胞(MLL-AF4急性白血病細胞株Sem細胞)にmiR-126を導入して8週間培養すると、B細胞マーカーであるCD20や、B細胞関連遺伝子の発現レベルが上昇した。これに対し骨髄系細胞関連遺伝子の発現レベルは変化しなかった。このことからmiR-126は白血病細胞をB細胞に分化誘導すると考えられる。

ただ、おかしなことに、miR-126を入れても転写因子の発現レベルは変化しないのです。一般的に、細胞の分化には転写因子が重要な働きをしていると考えられており、白血球をはじめとする血液細胞の分化においても、様々な転写因子が同定されています。しかし、私たちの実験結果では、B細胞への分化に関与する有名な3つの転写因子は、どれも発現レベルが上がっていませんでした。miR-126は、転写因子を介さないで分化を誘導しているのかもしれません。これまで転写因子なしでは細胞の分化は進まないと考えられてきましたが、転写因子を介さないで分化を誘導する経路が存在する可能性があるのです。

この成果は、ノンコーディングRNAを用いた新しい治療法の開発の糸口になる可能性を示す一方、サイエンスとしても転写因子そのものの概念を覆す大きな成果になるのではないかという自負をもって、私たちは引き続き研究を進めています。

注釈
【B細胞】
リンパ球の1つ。リンパ球には、B細胞のほか、T細胞、NK細胞などがある。
【転写因子】
DNA上の特定の部分に結合して転写を調節するタンパク質。