研究紹介

がん研究 スポットライト

早期鑑別困難なGISTの血清マーカー開発と増殖転移能の解明を目指す
GISTを含む消化管粘膜下腫瘍は早期の段階ほど、従来の検査法では診断が困難とされてきた。そこで臨床医の立場から画期的な検査方法を開発。今後はGISTの血清マーカーや転移能解明の研究を推進し一刻も早く患者さんの負担軽減、オーダーメイド医療につなげたいと考える。
香川大学医学部 消化器・神経内科 講師 小原英幹
革新的な消化管粘膜下腫瘍検査技術の開発

消化管粘膜下腫瘍に適した検査法を考案されたそうですね。

消化管粘膜下腫瘍(SMT)には消化管間葉系腫瘍(GIST)や平滑筋腫、神経鞘腫、神経線維腫、顆粒細胞腫などがありますが、検査段階でこれらを病理学的に診断するには通常の生検鉗子による組織採取だけでは不可能で、適切な組織検体を採取し免疫染色を行うことが不可欠でした。しかも良性か悪性かを確実に診断しきれず、その後何年も経過観察を続ける場合もあります。また、術前組織採取法で診断しえなかった消化管粘膜下腫瘍が手術中に進行胃癌とわかって術式変更を余儀なくされたり、術前に良性と診断しきれず確定のために過度の外科手術を受ける場合もあります。

私は臨床医の立場から、主に胃の下層以深で発育するSMTをより確実に診断できる内視鏡的組織採取法はないかと思案してきました。そこで国内で開発され、2006年に保険収載された内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) から派生した粘膜フラップ法を応用した、「粘膜下トンネル生検法(Submucosal Tunneling Biopsy:STB)」を考案したのです。

STBは具体的にはどのように行われるのですか?

具体的な手順を下図に示しました。粘膜下層に小さなトンネルを作成し、腫瘍を視認することができる安全・確実な組織採取法です。検査対象は消化管の壁外に発育する腫瘍を除く主に壁内に発育する腫瘍で、ESD症例を200例以上経験した、熟練の内視鏡医が検査を担当します。
静脈下麻酔薬を投与し、鎮静下に約30分で検査は終了、原則として1泊2日の入院扱いとなります。保険収載された手技ではないため、一般の方が希望される場合は当院の倫理委員会で承認された説明同意書へのサインが必要です。
現在、先進医療申請の取得を目指しているところです。

Kobara H, Mori H, et al. Endoscopy 2012; 44: E197-8
Kobara H, Mori H,, et al. Gastrointest Endosc 2013; 77: 141-5

  1. 侵入口10mmの小切開・粘膜下層への侵入・剥離による腫瘍側面へアプローチ
  2. 腫瘍に向ってトンネルを掘るように下層を剥離し、腫瘍を直視下に視認
  3. 腫瘍を視認できたら切開波を用いて組織の挫滅を最小限に抑え、約5mmの組織量を直視下に先端系ナイフ及び生検鉗子を用いてブロックで組織を採取
  4. トンネル内に組織を直接付着させないよう長めに装着した先端フード内に組織を回収
  5. 進入口のクリップ閉鎖を行うことで術後偶発症を回避する

粘膜下トンネル生検法(Submucosal Tunneling Biopsy:STB)

従来の内視鏡検査(上皮組織生検)と大きく違う点は?

標準的手法とされる超音波内視鏡下針生検診断法は簡便かつ短時間で済む手技です。ただし、細胞診を含めた診断率が平均84.6%(81-91%)と安定した結果が出る一方、免疫学的診断を含めた最終病理診断率は平均60.4%(34-91%)と、その報告例はかなりばらつきがあるのが実情です。その要因として腫瘍のサイズや部位、生検針により検体量が少ないことが挙げられます。例えば2cm前後の小さな腫瘍の場合、生検針が腫瘍内へ到達しても針の可動距離を長く保てない、胃壁と連動して腫瘍が可動するため組織採取が不成功に終わるという場合があるのです。

一方、粘膜下トンネル生検法は、粘膜下層に小さなトンネルを作成して腫瘍を実際に視認しながら組織を採取しますから安全・確実です。既存の超音波下針生検法との前向き比較試験では、両手技ともに合併症はみられないものの、免疫学的組織診断率は本手技のほうが有意な結果が得られました。この研究は、「革新的な内視鏡技術」を評価され、欧州消化器病関連週間(UEGW)の2013年ベルリン学会で Top 5 abstract Prizeを頂きました。さらに、本法は欧米主要内視鏡誌にも認められ公表されております。


プロフィール

小原 英幹(こばら ひでき)
香川大学 医学系研究科 消化器神経内科講座 講師

平成9年5月 香川医科大学医学部附属病院 第三内科 入局
平成9年10月 香川県立中央病院 内科 研修医
平成11年10月 香川医科大学医学部附属病院 医員
平成18年4月 坂出市立病院 消化器内科医長
平成21年2月 香川大学 医学科博士課程終了(医学博士)
平成22年4月 香川労災病院 消化器内科部長
平成23年4月 香川大学医学部附属病院 助教
平成24年11月 香川大学医学部附属病院 講師
現在に至る

[学会専門医]
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・四国支部評議員
日本内科学会認定内科医・四国支部評議員
日本消化器病学会 専門医・四国支部評議員
日本消化管学会暫定認定医・指導医

注釈
【消化管粘膜下腫瘍】
=Submucosal tumor: SMT
正常粘膜に覆われ粘膜上皮下を主体に発育する腫瘍の総称。通常の上皮組織生検では診断困難。
【GIST】
gastrointestinal stromal tumor
の略
【内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)】
病変を一括切除するため粘膜下の下層に侵入して剥離を行う手技:endoscopic submucosal dissection
【UEGW】
United European Gastroenterology Weekの略
【粘膜フラップ法】
Sumiyama K, et al. Submucosal endoscopy with mucosal flap safety valve. Gastrointest Endosc 2007; 65: 688-94