研究紹介

がん研究 スポットライト

早期鑑別困難なGISTの血清マーカー開発と増殖転移能の解明を目指す
求められるGIST研究者たちの連携と研究の加速化る

GISTの増殖・転移能はどこまで解明されていますか?

診断がつけば原則切除となるGISTは、転移リスク分類別にどのようなメカニズムで転移能を獲得するのか未だ明らかになっていません。一方で小さな低悪性度GISTの場合は、潜在的悪性とされるものの、GISTすべてを切除対象とする基礎的根拠が乏しいのが現状です。生涯にわたり転移せず切除不要となる場合もあります。かたや、既にお話ししたように1年で急激に増大して肝転移した症例もあるため、転移リスクの解明は重要な課題といえるでしょう。

研究の今後の展望としては、転移リスク分類別GISTのヒト対象組織サンプルの腫瘍部、非腫瘍部(正常粘膜)におけるmiRNAの発現を網羅的に解析し、転移リスク分類別に特異的に発現増強・減弱するmiRNAを同定します。またメッセンジャーRNAアレーを用いて網羅的解析を追加するなどして、GISTが転移能を獲得する過程と密接に関連する細胞内信号伝達経路と主要な遺伝子の絞り込み、さらにGISTにおいて発現の高いmiRNAの標的遺伝子を絞り込んでいければと考えます。

新たなGIST治療薬の研究も進めているそうですね。

悪性GISTにおける増殖・転移能に関わるメカニズムの解明は、腫瘍の進展を抑える新たな創薬につながります。近年、GISTにおいてc-kit遺伝子変異が重要な役割を担っていることが発見され、KIT阻害療法が導入されたことでGISTの治療は急速に発展してきました。ゲノム研究の発展によりPDGFRα 蛋白変異やエクソン11、9の順に変異が多いことも証明されていて、エクソン変異部位別の分子標的薬の個別化医療も進んでいます。

一方で問題となっているのが、GIST第一の治療薬でもある分子標的薬「イマチニブ」に対する二次耐性(獲得耐性)です。その原因の約7割はKITあるいはPDGFRA遺伝子に生じた新規の遺伝子変異とされています。既存の分子標的薬だけに頼る治療では、病巣の縮小や緩解維持は困難なのが現状なのです。さらに上記以外の耐性変化としてKITやPDGFRAチロシンキナーゼ下流の遺伝子変異(BRAF、RAS遺伝子群やNF-1の変異)が報告されており、これらも新たな治療薬のターゲットになり得ると考えられています。

またアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)をはじめとした一部の降圧薬に、悪性腫瘍に対する抗腫瘍効果が報告されています。私たちの研究グループはこのARBがGISTにも同様な効果をもつのではないかと考え研究に着手しました。 まず4種類のARB(カンデサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、バルサルタン)と、GIST細胞株(GIST-T1)に対する細胞増殖アッセイを行ったところカンデサルタンとテルミサルタンに抗腫瘍効果のあることがわかりました。

【アンギオテンシン受容体拮抗薬とGIST-T1細胞株に対する細胞増殖アッセイ】

フローサイトメトリーでは、カンデサルタンは細胞周期のG0/G1期からS期への移行を停止させ、細胞周期関連蛋白であるCyclinD1やCyclinEなどの低下が示され[図2]、細胞周期の停止に関与していることが考えられます。現在はさらにアポトーシスやオートファジーなど、新たな抗腫瘍メカニズムとそれに関連するmiRNAについての検討を進めているところです。

【カンデサルタンと細胞周期関連蛋白】

研究を進めるにあたっての課題をお聞かせください。

GIST研究は世界的にみても、上皮性のがん(大腸癌や膵臓癌など)に比べて研究者が多いとは言えないのが現状です。当該分野の加速化のためには、国内のGIST研究者たちと強力なタッグを組んで研究を推進する必要があると痛感しています。実際、今回の創薬研究に関わるGIST耐性細胞株は、高知大学血液呼吸器内科池添隆之先生、総合人間自然科学研究科の田口尚弘准教授のご厚意で提供いただけたものなのです。

何より若手研究員との連携は不可欠です。私は、日中は臨床医としての仕事があるため、モチベーションの高い若手研究者から大いに力を得ています。先に触れた藤田浩二 特命助教をはじめ藤原新太郎 特命助教、森宏仁 講師、研究室のメンバーとは学会活動、論文作成等においても長い時間を共有しています。研究を進めるにあたりいくつもの課題がありますが、これからも“Boys be ambitious”の精神を抱く彼らとともに、医学貢献できるようスピード感をもって研究を進めてまいりたいと思っております。


TEXT:冨田ひろみ PHOTO:岩上 紗亜耶
取材日:2015年11月26日

注釈
【イマチニブ】
チロシンキナーゼ阻害剤。KIT蛋白の阻害によりGISTの増殖が抑制される。商品名「グリベック」