研究紹介

がん研究 スポットライト

長鎖ncRNAを、放射線治療の効果予測マーカーに用いる
早期鑑別困難なGISTの血清マーカー開発と増殖転移能の解明を目指す

トンネル生検法により新たに解明されたことがあるそうですね。

SMTにより、これまでは内視鏡で見えなかった腫瘍それぞれがもつ、内視鏡像の特色を提唱できるようになりました。腫瘍の種類ごとに分類したものを以下に示します。

【直視下胃粘膜下腫瘍像の分類】

Endoscopically visualized features; EVF classification

本法のような切開メスを使った内視鏡下生検法において、腫瘍をじかに視認することは、確実な狙撃組織採取につながる重要な鍵になります。この分類は、新たな診断ツールとしての有用性が示唆されるわけです。

GISTは、他臓器転移、根治的切除不能例では生命にかかわる疾患です。罹患率は100万人当たり年間11人から20人と推計され、けっして稀な疾患ではありません。米国では年間約4500人から6000人が新たにGISTと診断され、うち約1500人が診断された時点で既に転移があると推定されています。国内での切除不能または再発したGISTの患者数は推定で年間1000〜1500人です。

ところが胃粘膜下腫瘍の初期段階は、従来の検査法だけでは良性の平滑筋腫か悪性の素質をもつGISTかを鑑別するのが非常に困難です。鑑別には超音波内視鏡検査が有用とされるものの、いずれも筋層由来で画像上は低エコー腫瘤として描出されるからです。直径2cm未満の腫瘍では、悪性所見がない場合は、年に1、2回の経過観察がGISTの診療ガイドラインに示されています。とはいえ、2cm未満でも転移の可能性があり、また短期間で急速に増大し肝転移したという症例も報告されています。つまり検査結果次第では、患者さんに過度の精神的身体的な負担を強いることがあるわけです。

そこで、私たちの研究グループは、GISTか否かを早期の段階で診断できる血清マーカーの開発と、転移をきたすメカニズムの解明に取り組んでいます。血清マーカーの開発のためにまず注目したのが、当大学医学部消化器・神経内科学の正木勉教授の下で研究を重ねてきたマイクロRNA*(miRNA)でした。近年、世界中でmiRNAの研究が盛んになっていますが、当教室でもこれまでに種々の癌(食道、胃、肝)で発現するmiRNAが正常組織と比較して著明に変化していることを実験系で明らかにするとともに、特定のmiRNAが細胞の腫瘍化・進展に関与していることを報告してきました。
癌組織のなかにはそれぞれの癌に特有のmiRNAを含んでいることは知られていますから、GISTでも有意発現した特異的miRNAが新たな血清学的鑑別マーカーとして非侵襲的早期診断や治療方針の決定に大いに貢献できると確信しているのです。

血清学的マーカーの開発・研究は現在どのような段階にありますか?

粘膜下トンネル生検法は、小さな腫瘍でも実際に目で見て確実に純検体を得ることが可能です。当院の倫理承認下で、従来まで採取困難とされてきた小さな低悪性度GISTや平滑筋腫の組織サンプルを採取・保存しています。具体的にはトンネル生検により確定診断された低悪性度GIST9例(胃8、直腸1)、平滑筋腫7例(胃6、食道1)のヒト組織サンプルを用いて、ヒトに現在あると確認されている2555種類のmiRNAを「クラスター解析」という手法により、GISTで特に量が多く検出されるmiRNAが何かを探ったのです。

その結果、従来は血液検査だけでは診断がつきにくかったGIST群と平滑筋腫群(Leiomyoma)を比較したところ、miRNAの発現量の違いがはっきり出ました。GISTは平滑筋腫に比較してmiRNA-140 family(5p、3p)が20倍近く強発現していたのです。さらに「定量的real time PCR」という分析法でも有意差が確認されたのです。

【2555種類のmicroRNAのクラスター解析】
【miRNAの発現プロフィール(GISTで発現の高いmiRNA)】
【Real-time qPCR】

Fujita K, Kobara H, Masaki T, et al. Endosc Int Open. 2015; 6: E665-71

この結果は、研究メンバーの一員である藤田浩二研究員が遂行してきたもので、UEGW2015年のスペイン学会にて公表し、Poster Champion Awardを獲得しました。またEndoscopy International Open(EIO)誌でも公表されています。現在は、このmiR-140familyが実際にGISTの血清マーカーとして確立することができるのか、さらに研究を進めている段階です。

これまでにGIST3例、平滑筋腫3例の血清が倫理承認下に既に取得・保存され、順次、蓄積している段階です。組織中でマーカー候補として検出された上述のmiR-140familyについて、血清に含まれる濃度を定量し,GISTと平滑筋腫との鑑別診断において,このmiRNAが有効であることの確認を進めてまいります。また、実際に日常診療の場で活用できる安価かつ簡便な血清診断用試薬キットの開発も視野に進めているところです。

このように臨床サンプルを基礎研究にいかすトランスレーショナルリサーチを今後もさらにおし進め、有意発現した特異的microRNAがGISTの新たな血清学的鑑別マーカーとなる診断法の確立を目指していきたいと考えています。

共同研究員:藤原 新太郎 特命助教

共同研究員:藤田 浩二 特命助教



注釈
【マイクロRNA(miRNA)】
ゲノムDNA30億のうちタンパクの翻訳に使用されない非コード領域にあるゲノムDNAから転写された21〜25塩基程度からなる小さな分子。生物の遺伝情報は通常、「DNA→(転写)→メッセンジャーRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される。miRNA はタンパク質へ翻訳されないRNAに分類されており、ほかの遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っている。miRNAは、メッセンジャーRNAの翻訳反応を物理的に阻害することで、さまざまな遺伝子発現を抑制することがわかっている。