研究紹介

がん研究 スポットライト

RASによるがん悪性化に、p53を介したアクチン細胞骨格の変化がブレーキをかける道筋を解明!
p38MAPKやHtrA2/Omiを標的とした新たながん治療へ

解明された系は、新たながん治療の標的として重要視されるのではないですか?

はい、その可能性は十分あると考えています。たとえば、p38MAPKやHtrA2/Omiのリン酸化経路を標的とした、がん細胞の悪性化を防ぐ治療が考えられると思います。HtrA2/Omiの活性化は正常細胞にとっても必須なので、副作用は少ないと思われます。「ミトコンドリアを介した、まったく新しい抗がん治療」ともいえますが、RAS やp53の変異ががん症例の半数にみられることを考えると、実現のメリットは大きいといえます。
まだアイディアの段階ですが、私自身ががん患者の家族だったこともあり、夢をあきらめずに研究者としてできることを探していきたいと考えています。

ご苦労もあったのでは?

はい、そのとおりです。今回の論文はこの3月に受理され、翌4月に甲南大へ赴任してきたのですが、移籍当初は研究資金も設備も足りない状況に苦慮しました。その後、この「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」に採択いただいたことで、遠心分離機やゲル撮影装置等を購入するなど、今は研究環境が安定し、安堵しています。

今後の予定や目標は?

がん細胞が転移した先の力学的環境(メカニカルストレス)によって、p53の発現やアクチン骨格がどのように変化し、それが浸潤能にどう影響するのかを解析し始めています。また、シンガポール国立大学とは、今でも共同研究を続けています。
合わせて、「活性化型RASが過剰発現される生体マウス」を用いた実験も始めています。今後、生体レベルの研究とイメージング解析が重要になってくると思われますので、よい実験系を開発したいと考えています。さらに、RASの活性化によってNF-κBもミトコンドリア内に移行することなども突き止めつつありますので、今回の系とNF-κBとの関連にも迫りたいと考えています。

【メカニカルストレスを解析する実験系の模式図】

細胞の牽引力の計測。蛍光ビーズを含むアクリルアミドゲル上での細胞を培養し、トリプシン処理前後のビーズ間の距離の変化を多点共焦点顕微鏡法によるイメージから計測し、細胞の牽引力を求める。 (A)蛍光ビーズ含有アクリルアミドゲル、(B)ゲル上で培養した細胞、
(C)細胞牽引力の分布


TEXT:西村尚子 PHOTO:橋本伸吾
取材日:2015年8月10日