研究紹介

がん研究 スポットライト

RASによるがん悪性化に、p53を介したアクチン細胞骨格の変化がブレーキをかける道筋を解明!
マウスの培養細胞を用いた2つの実験

どのような細胞を使って、どのような実験をされたのでしょうか?

活性化型RASを過剰発現させたマウスの不死化培養細胞を使って、2つの実験系を用意しました。一つはそのままの状態で「がん細胞モデル」としたもの、一つはさらにp53の機能を破壊した「悪性がん細胞モデル」としたものです。そのうえで、それぞれの系の細胞形態変化、アクチン骨格の変化を詳細に観察しました。さらに、細胞のアクチンを「線維化したもの(Fアクチン)」と「単量体のもの(Gアクチン)」とで染め分け、蛍光顕微鏡によるイメージング解析を行いました。

実験の過程で、活性化型RASによってミトコンドリアが断片化するという興味深い現象が認められたので、ミトコンドリアに局在するタンパク質を同じく蛍光タンパク質でイメージングするとともに、ミトコンドリアの膜電位の測定、細胞質とミトコンドリアタンパク質の分画といった生化学的な解析も行いました。

実験の結果、どのようなことがわかったのでしょうか?

どちらの系でも、活性化型RASによってストレスファイバーが消失し、細胞が細長くなりました。ところが、細胞の辺縁部をよくみてみると、p53の有無によって、ラメリポディアの形成能が異なることがわかりました。このことは、ラメリポディアの形成が、p53によるミトコンドリアの制御と関連していることを示しています。

p53が正常な系では、活性化型RASによって細胞質にp53が蓄積し、続いて「ミトコンドリアの膜電位の低下」と「p38MAPKというタンパク質キナーゼのミトコンドリアへの移行」がみられました。解析の結果、p53はp38MAPKがミトコンドリアに移行するのに必要だということがわかりました。つづいてミトコンドリアは断片化され、内部から「活性化されたプロテアーゼ(HtrA2/Omi)」が細胞質中へ漏れ出てきました。活性型のHtrA2/Omiは、細胞内でアクチン分子を切断することでラメリポディアの形成を阻害し、がん細胞の悪性化を防いでいました。

【p53によるRas依存性トランスフォーム細胞の転移の浸潤抑制】

JCB 2014 Yamauchi S

一方のp53が欠損した系でも、ミトコンドリアの機能が阻害され、やはり断片化がおき、HtrA2/Omiが漏れ出てきました。ただしp53がないためにp38MAPKのミトコンドリア移行がおきず、HtrA2/Omiは活性化されませんでした。その結果、細胞質内でアクチン分子が切断されることはなく、ラメリポディアの形成が促進され、浸潤能の高い悪性化した細胞となっていました。

【p53欠損時のRas依存性トランスフォーム細胞の浸潤促進】

JCB 2014 Yamauchi S

ここで重要視すべきなのは、p53がよく知られた転写因子としてではなく、「ミトコンドリアタンパク質のシグナルを制御する分子」として機能していた点です。この機能の有無が、アクチン骨格の制御、つまり、がんの悪性化を左右していたことになるからです。さらに、アクチン分子の切断がFアクチン量の減少の原因となり、このことがラメリポディアの形成を誘導する分子の機能を阻害するシグナル分子となっていた点も重要でした。

アクチン骨格とがん悪性化を検討している研究者はたくさんおり、悪性度が高い細胞にラメリポディアがみられることは認識されていましたが、p53の変異の有無を考慮した研究はされていませんでした。今回の研究は、p53、アクチン骨格、ミトコンドリアの機能がつながった点に最大のインパクトがあるといえ、シンガポールではこの点についてのインタビューを受けました。

注釈
【タンパク質キナーゼ】
タンパク質の特定の部位をリン酸化させる酵素のこと。リン酸化することで、細胞内の情報伝達、代謝、分裂、形態変化などのさまざまな機能を発揮する。