研究紹介

がん研究 スポットライト

臨床現場で使える生体蛍光分子イメージング法を開発 治療が難しい悪性脳腫瘍の外科的手術法をサポートして、患者さんのQOLをさらに改善したい
今後の研究目標──“ヒトの癌”にこだわり続けてこれからも

これまでの研究成果から新たな展開がありますか?

私はこれまで癌の多剤耐性に関係するABCトランスポーターの研究を約30年行ってきました。ヒトのゲノムDNAの中には48種類のABCトランスポーター遺伝子がコードされており、その1種であるABCG2は、生体内では、脳、胎盤、消化管上皮、肝臓などに発現し、生体異物や毒物の排出を行うことで生体の防御機構を構築しています。特に、血液脳関門に発現するABCG2は、抗癌剤などの脳内への侵入を阻止しています。ところが近年になって、このABCG2が細胞内のポルフィリンを細胞外へ能動的に輸送することが明らかになってきたのです。

私達は、悪性脳腫瘍の治療において、このABCG2の生理的な機能を逆手にとることを考えました。それは、ABCG2の阻害剤を患者さんにALAと共に短時間投与することによって、悪性脳腫瘍におけるプロトポルフィリンIXの蓄積を上昇させて、PDDおよびPDTの効率を向上させようとするものです。悪性脳腫瘍のPDDの際、正常組織と癌組織との境界が明確でない場合が多々あります。その原因の1つとして、ポルフィリンが癌細胞の外に輸送されることによって、正常組織との境界が不鮮明になっていると私達は考えたのです。そこで、このポルフィリンの輸送を止めて、正常組織との境界コントラストをより鮮明にして、外科的切除をやりやすくする方法を開発しようと考えたのです。ABCG2の輸送機能を阻害する物質を探索する高速スクリーニング系を開発し、効率的な阻害剤分子デザインを行なってきました。その結果、臨床研究で検証する薬(阻害剤)もほぼ決まりました。次のステップとして、黒岩教授のグループと共に臨床研究を実施することをめざしているところです。

上/脳腫瘍の外科手術の様子 下左/脳のCT画像 下右/ポルフィリンによる脳腫瘍の蛍光反応

上/脳腫瘍の外科手術の様子 下左/脳のCT画像
下右/ポルフィリンによる脳腫瘍の蛍光反応
写真提供:大阪医科大学・脳神経外科 黒岩敏彦教授

私にとってもう1つの研究対象は、悪性脳腫瘍における転写因子ネットワークの研究です。脳腫瘍は悪性になればなるほどCPOX遺伝子の発現が高まってきます。この遺伝子の発現が高まってくる背景には、転写因子が必ず関係していると思っています。未知の転写因子かも知れません。とにかく、この転写因子とそのネットワークが脳腫瘍の悪性度と関係しているだろうと私は推察しています。これを解明することが、今後の研究課題です。

TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2011年9月12日

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