研究紹介

がん研究 スポットライト

臨床現場で使える生体蛍光分子イメージング法を開発 治療が難しい悪性脳腫瘍の外科的手術法をサポートして、患者さんのQOLをさらに改善したい

写真提供:大阪医科大学・脳神経外科 黒岩敏彦教授

光線力学診断と光線力学的療法の進歩と、その問題点への追究

脳腫瘍の診断と治療法は、どのように進められるのですか?

脳腫瘍の診断は「光線力学診断 (photodynamic diagnosis ; PDD)」といって、プロトポルフィリンが腫瘍細胞に蓄積しやすい性質を利用して、その赤色蛍光を指標にして癌組織を特定します。この診断法は、皮膚癌、肺癌、大腸癌等にも応用することができます。

一方、光線力学的療法(photodynamic therapy ; PDT)は、光感受性物質とレーザー光線との併用で悪性腫瘍内に光化学反応を起こさせて、腫瘍組織を死滅させる方法です。 PDTには2つの方法があり、1つは「内視鏡的PDT」といい、光増感剤(ヘマトポルフィリン誘導体)を静注して内視鏡的に光線を病変部に照射します。もう1つは「ALA-PDT」といい、δ-アミノレブリン酸(ALA)を経口投与して光線を照射します。
PDTは、従来の外科的手術より患者さんへの負担が少なく、患者さんのQOLの向上に非常に有効であるとして近年では特に注目されています。また、内視鏡的PDTにおける治療成績は、早期肺がんや食道がん、胃がん、子宮頸部初期病変で非常に良好です。さらに、この療法は治療が比較的に簡単で、臨床における利点も多いのが特徴です。

良いことずくめの治療法と思いますが、何か問題点はありますか?

いくつかあります。まず、人工の光増感剤は投与すると排泄速度が遅く、体内に蓄積しやすいので、部屋の光やその他の光によって患者さんが光線過敏症を引き起こしやすいのです。そのため、患者さんの体内から光増感剤が排除されるまで(投与後数週間から約1ヶ月間)は、暗室内で過ごさなくてはならないという難点があります。

一方、ALAは生体内で代謝され、48 時間以内に排泄されるため、全身の光感受性にはほとんど影響しないという特徴があります。ALA自体は光毒性を持ちませんが、細胞膜にあるオリゴペプチド輸送体(PEPT)の働きによって細胞内に取り込まれて、そこでプロトポルフィリンIXへと変換され、これが生体内光増感剤となります。このプロトポルフィリンIXは腫瘍細胞に選択的に蓄積し、光線に暴露されると光エネルギーで励起したのち、一重項酸素を生じます。この一重項酸素が、ゲノムDNA、蛋白質、細胞膜と反応して細胞死を招くわけです。

ポルフィリンはどういう過程で生まれるのですか?

ポルフィリンの生合成は、下図のようにグリシンとスクシニルCoA(コハク酸と補酵素Aが結合)が酵素的に反応してALAが合成されるステップから始まり、ミトコンドリアと細胞質という空間的に異なったコンパートメントにまたがる多段階の酵素反応を経て完成します。膜を隔てた中間体の輸送は、ABCトランスポーターであるABCB6とABCG2が重要な役割をしていることが近年明らかになりました。ABCB6は、細胞質からミトコンドリアへのコプロポルフィリノーゲンの輸送に関与し、ABCG2は細胞内から細胞外へのポルフィリン輸送を行い、細胞内のポルフィリン濃度の制御に関与しています。

ポルフィリンの集積は、脳腫瘍の悪性度によって違いますか?

私と大阪医科大学・脳神経外科教室・黒岩敏彦教授のグループとの共同研究によって、悪性度の高い脳腫瘍ほど腫瘍組織にプロトポルフィリンIXが蓄積しやすいということが判明しました。では何故、悪性度の高い脳腫瘍ほどプロトポルフィリンIXの蓄積しやすいのでしょうか?この疑問を解くために、分子生物学の手法を駆使して、原因となる遺伝子を探索しました。

大阪医科大学において、インフォームドコンセントを頂いた脳腫瘍の患者さんから外科手術で切除された腫瘍検体を用いて、ポルフィリン生合成と輸送およびヘム代謝に関与する14の遺伝子のmRNAレベルを定量的に測定したのです。その結果、プロトポルフィリンIXの蛍光レベルが低い腫瘍組織に比べて、蛍光レベルが高い悪性脳腫瘍においてコプロポルフィリノーゲン酸化酵素(CPOX)という遺伝子のmRNAレベルが顕著に(約10倍)増加していることを発見したのです。その研究成果は米国医学誌Neuro-Oncologyに、つい最近発表されました。大学院の頃から抱いていた私の疑問が、実に35年ぶりに解けたのでした。

Takahashi K, et al. (2011) Enhanced expression of coproporphyrinogen oxidase in malignant brain tumors: the mechanism underlying 5-ALA-induced fluorescence in photodynamic diagnosis. Neuro-Oncology, 13(11):1234-1243.

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