研究紹介

がん研究 スポットライト

三次元細胞培養による大腸がん発がんモデルの開発
さまざまな臓器のがんや創薬にまで応用可能

腸管以外の臓器のがんでもこのモデルが使えるのですか?

胃、肺、肝臓、すい臓などいろいろな臓器で試したところ、オルガノイドの作製・遺伝子の導入が可能とわかりました。実は、私たちが最初につくろうとした腸や胃の細胞は新陳代謝が激しいため扱いが一番難しく、他の臓器のオルガノイドのほうが簡単だということが、後になってわかりました。腸以外の臓器の場合も、がん化の評価は、浮遊培養での凝集塊形成能を観察することで行えます。発がんにおける遺伝子の作用の仕方は臓器ごとに異なるので、各臓器の発がんモデルが作製できることはたいへん有用です。

私たちは今、肝内胆管がんの遺伝子異常について、私たちが開発したモデルを使って解析しています。肝内胆管がんというのは、肝臓から分泌される胆汁の通り道である胆管に生じるがんのことです。日本では発生数が多いのですが、世界的にみて、これまで研究があまり進んでいませんでした。共同研究者である国立がんセンターの柴田龍弘分野長が新たに見つけた遺伝子の異常が、肝内胆管がんにどのような作用をもつのか、作製した胆管オルガノイドを用いて解析しているところです。他の遺伝子との相互作用も含めた多段階発がん機構について、効率的に解析できるという手応えを得ています。

【オルガノイドを用いた発がんモデルをさまざまな臓器で開発中】

上皮細胞性のがんを生じるさまざまな臓器で、オルガノイド形成と遺伝子導入による発がんモデルの作製に取り組んでいる。肺、胃、肝臓、膵臓、大腸、小腸で両方に成功。食道、胆嚢、腎臓では、オルガノイド培養に成功(2104年末現在の結果)。臓器名についている星の数が多いほど、オルガノイドの培養と発がんモデルの作製が技術的に難しいと筆宝部長らが感じていることを示す。

今後はどのような展開を目指されていますか?

三次元細胞培養による臓器オルガノイドを用いた発がんモデルの長所は、各臓器での発がんを簡便に調べることができる点ばかりでなく、他にもいろいろあります。動物個体を用いる場合、遺伝子以外の環境因子による影響、例えば、炎症、肥満、ストレス、腸内細菌、周囲の細胞などを排除することが難しいのですが、その心配をしないですむようになるのです。すでに述べたように、複数の遺伝子や因子が段階的に及ぼす影響を調べるのも容易です。また、細胞培養というと、一般的に培養液としてウシの血清を用いることが多く、その血清に含まれる複雑な成分による実験への影響も心配なのですが、私たちが用いた三次元細胞培養の培養液は非常にシンプルな化合物のみからなっており、影響を心配する必要がありません。

また、このモデルは、発がんのしくみを調べるだけでなく、薬剤開発における評価系としても有望なことがわかりました。1個の正常細胞からオルガノイドを作製できるので、均一な条件のオルガノイドを安定して作製でき、例えば、正常細胞には影響せず、がん細胞だけを障害する薬剤の効果を評価するといったことに使用可能です。将来的には、ヒトの細胞でオルガノイドを作製し、その個人個人に合わせた治療法や治療薬の探索にも利用できると考えられます。

このように利用価値の高いモデルですので、多くの人に使っていただけるよう、希望者には作業のやり方をお教えしています。とても簡単な方法とはいえ、それでも細胞培養ですから、細胞の顔色を見ながらやるといったちょっとしたコツが必要です。それで、直接お教えするのです。私たちのモデルが、がんや創薬での実験のスタンダードになって、皆さんの研究の発展に役立つことと願って、研究員の丸喜明さん(トップ写真向かって左)、博士研究員の折橋郁(かおる)さん(同右)とともにがんばっていきます。

【上皮細胞性のがんを試験管中で再構成するモデルの今後の展開】

がんの機序の解明、創薬、そして将来には個別化医療などに適用可能である。

筆宝 義隆

TEXT:藤川 良子 PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年11月12日