研究紹介

がん研究 スポットライト

中皮腫の早期診断から治療戦略まで国際貢献できるモデルをつくりたい
「環境発がん」の‘東京モデル’で国際貢献を目指す

中皮腫患者のハイリスクグループのスクリーニングをしているそうですが。

アスベスト・中皮腫外来と大型検診において、この5年間に血液マーカー(血中N-ERC測定)で高値を示した人をハイリスクグループに選定し、半年に1回の血液検査を実施しています。対象者は数十人いて、追跡中にマーカーの値が上昇したらCT、PET診断を行い、薬剤の集積がみられれば病理学的にバイオプシして確定診断を行なうというものです。フォローアップを迅速にしているのが、独自に開発したELISA(エライザ)系です。ELISA自体は昔からの方式で、これをもっとバージョンアップさせた測定キットを開発しました。以前は手動だけでしたが、いまは半分が自動化された装置で測定できるため、初診、再診、そして手術後の患者さんのフォローアップのスピード化が可能になったのです。

【中皮腫の診断・診療体系全体の発展に寄与できる医療社会基盤の構築】 診断システムの流れ
診断システムの流れ

初回診察時のN-ERC / Mesothelin値が8.6ng/mL、4ヶ月後13.5ng/mL、さらに半年後31.4ng/mLと値が上昇し、その後、中皮腫と診断された。
これは自覚症状が全くない状態で、血液診断に基づき中皮腫患者が特定されたケースである。

中皮腫患者を追跡調査する意義はどこにありますか?

特定の環境で‘10万人中1人がかかる’がんは「環境発がん」とよばれますが、我々がこれまで大型検診で見てきた土建関係者にかぎれば、発症の比率はもっと高いです。日本は1970年代をピークにアスベストが大量使用され、欧米よりも規制が遅れたせいもあってアスベスト曝露者は推定で数百万人います。使用禁止措置以降もアスベストは残っています。阪神大震災(1995年)での家屋の倒壊や解体作業で大量のアスベストが飛散して問題になったし、2011年3月11日に発生した東日本大震災でも瓦礫から大量のアスベストが飛散しているわけで、本来なら国が率先してこの環境発がんの対策に取り組んでほしいのです。とはいえ、誰かがやらなくてはいけないのですから、我々はアスベスト中皮腫患者のスクリーニングを‘東京モデル’としてまとめているところです。これを全国、さらにはアジアに展開していくつもりです。ベトナムやタイ、中国、韓国でも、すでに中皮腫の患者が出てきていますからね。

東京モデルをつくるうえでの課題はありますか?

いまは順天堂大ができる規模で追跡調査をしていますが、調査対象は北海道から沖縄まで拡げる必要はあるし、ひいてはアジアでも行なう必要があるでしょう。それには資金も必要です。そこで私は「国際環境発がん研究センター」の創設を強く訴えたいですね。それなら、多くの人が調査研究にあたれますから。かつて新渡戸稲造が、国際連盟においてユネスコの前身にあたる国際知的協力委員会(ICIC)をジュネーブで立ちあげたように、21世紀版の知的協力委員会が必要だと思うのです。原発事故による放射線汚染など、いろいろなことが起きているこの時代だからこそ、歴史に学ぶべきではないでしょうか。