研究紹介

がん研究 スポットライト

がんの微小環境に注目し、骨転移の分子メカニズムに迫る
がんのなかには、原発巣が治っても、長い年月を経た後に骨転移が発生するものが少なくない。転移先のがん細胞は、骨を壊す破骨細胞を誘導して自らが成長できるスペースを作り、骨を新生するための成長因子を利用して大きくなる。骨組織という特殊な環境に適応するための巧妙なメカニズムが明らかにされつつある。
名古屋市立大学大学院 医学研究科 分子毒性学分野 准教授 二口 充
発がん・毒性の研究から骨転移研究へ

骨転移に興味をもたれたきっかけは?

私は、名古屋市立大学の医学部を卒業し、病理学教室に入りました。そこでは、化学発がん物質を動物に投与することで肝臓にがんができるメカニズムを研究し、環境中の物質に発がん性があるかどうかの判定などもしていました。その過程で、ある化学発がん物質を投与すると、まず肝臓にがんができ、その後それが肺に転移するということを突き止めました。このモデルを用いて転移を阻止する薬を作ろうと、転移に興味をもちはじめたのですが、肝臓がんの肺転移は頻度としては低く、臨床的にもあまり重要ではありませんでした。転移研究においてなにが重要視されるべきかを考えたところ骨転移に思い当たり、その分子メカニズムの解明に取り組み始めたのです。

がんでも、骨転移しやすいものと、そうでないものがあるのでしょうか?

はい、そのとおりです。きわめて骨転移しやすいもの、たまにするもの、ほぼしないものなどにわけられます。きわめて骨転移しやすいのは、前立腺がん、乳がん、骨髄腫などです。肺がんはこれらにくらべると少ないですが、骨転移することもあります。一方、大腸がんや胃がんはほとんど骨転移しません。

なぜこのようなちがいが出てくるのかは、古くから検討されてきました。たとえば19世紀末には、Pagetは「腫瘍細胞と転移先の環境」を「種と土」にたとえました。種が必要とする栄養分を土がもっていれば植物が成長して実をつけるように、転移先に到達した腫瘍細胞も大きくなるだろうと考えたのです。現在では、この考え方はほぼ正しいとされています。転移したがんにとって、転移先は原発巣とは全く異なる環境だといえますが、その周辺の環境(微小環境)から必要とする栄養が得られれば、そこで腫瘍が成長するだろうと考えられています。

この5年ほどは、がん細胞と「転移先の間質細胞」との相互作用についての研究が進み、さまざまなサイトカインやケモカインが関与していることなどが明らかにされています。残念ながら、今のところ具体的な治療の開発には結びついていません。

プロフィール
二口 充

二口 充(ふたくち・みつる)

1995年 名古屋市立大学大学院医学研究科卒業
2001年 名古屋市厚生院附属病院第二診療科(病理)
2006年 名古屋市立大学医学研究科実験病態病理学分野講師
2008 年 同分子毒性学分野准教授

名古屋市立大学医学部在学中に伊東信行教授(旧第一病理)に薫化され、病理学を専攻。大学院卒業後、実験病態病理学の助手、講師、准教授を経て、現職。
ラットの化学発がんモデルを用いた、発がん・がん予防研究を出発点とし、がん転移の動物モデルを用いた、転移メカニズムの研究、特に骨転移における腫瘍間質相互作用の研究へ展開している。最近は、ナノ材料の吸入曝露による発がんメカニズムにも腫瘍間質相互作用が重要であることを見いだし、毒性学の分野にも「浸潤」している。

注釈
【サイトカイン】
細胞から分泌されるタンパク質の因子を総称してサイトカインという。それぞれのサイトカインには特異的なレセプターがあり、免疫、造血、増殖、分化などのシグナル伝達を担っている。
【ケモカイン】
サイトカインのうち、白血球に作用し、炎症部位への遊走などをもたらすものをいう。インターロイキン-8などが知られる。