研究紹介

がん研究 スポットライト

がん細胞を長波長で赤く光らせ、生きたまま体外から観察する
骨転移モデルを用いたmicroRNA解析へ

先生は、骨転移モデルを用いて、実際にどのような研究をされているのでしょうか?

私は、「骨転移をするがん細胞」が、はじめから骨組織で成長できる性質をもっているのではなく、骨組織で成長できる性質を後天的に獲得するのではないかと考えていました。

その検証のためにまず、骨転移モデルを用いて、ヒトの骨転移巣を同じ組織像を示した領域、つまり、破骨細胞や骨芽細胞を活性化する腫瘍細胞が増殖する領域を切り出し、この部位で発現が有意に変化する遺伝子を網羅的に調べてみました。その結果、発現が上がる遺伝子が5つ、下がるものが3つみつかりました。発現が上がる遺伝子のうち、MMP7とRANKLに着目しました。というのは、MMP7は「がん細胞の表面に発現するタンパク質を可溶化することで、前立腺がんの進行を促す」と報告されており、RANKLはレセプターであるRANKと結合して破骨細胞を活性化すると報告されていたからです。そこで私たちはこのMMP7がRANKLを可溶化し、その断片がリガンド(RANK)と結合することで破骨細胞を活性化しているのではないかとの仮説を立て、ノックアウトマウスなどで検証してみました。予想はみごとに的中しました。

さらに私たちは、同じく骨転移モデルを用いて、腫瘍細胞のみが増殖する領域ではTGFβレセプターの発現はみられないが、破骨細胞や骨芽細胞を活性化する腫瘍細胞が増殖する領域ではTGFβレセプターの発現が上昇すること、骨の基質に含まれるTGF-βは骨芽細胞が分泌するMMP13という因子によって活性化されることで転移巣の成長に寄与していること、なども突き止めました。
一連の成果は、「骨転移してきたがん細胞」が、あとから骨で成長できる性質を獲得し、悪循環を繰り返すようになることを強く示唆しているといえます。

どうやって骨転移できる性質を獲得したと考えられるのでしょうか?

まだ明らかではありませんが、何らかのmicroRNA(miRNA)が、RANKL、TGFβレセプターなどの遺伝子発現を上げる黒子としてはたらいているのではないかと考え、解析を始めたところです。がんの浸潤や転移と関連するmiRNAは、すでに200以上が知られています。私もそれらを対象に、骨転移したがん細胞で発現が有意に変化するmiRNAを網羅的に調べてみました。その結果、発現が上昇するものがmiR-133aなど3つ、低下するものがmiR-205など6つ以上みつかりました。詳しい機能解析はこれからですが、RANKLやTGFβとの関連が報告されているものも含まれており、私たちの筋書きは正しいのではないかという感触を得ています。

【本研究における仮説/研究目的】

治療に結びつく成果が待たれますね。

はい、寿命もがんの予後も伸びているので、今後は、長い目でみた転移予防が非常に重要になってきます。私は、骨転移の詳細な分子メカニズムを解明し、微小環境からの栄養を止めることで骨転移を予防・治療できる薬の開発に寄与したいと考えています。ただし、どこか一か所を阻害しても、がんは、あの手、この手で成長するので、複数の種類の薬が必要だろうと思っています。化学療法を含め、多剤を併用した治療を行うことで分裂と栄養源をおさえられれば、がんの予後は明るくなると思います。引き続き、研究に邁進していくつもりです。


TEXT:西村尚子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年9月14日