研究紹介

がん研究 スポットライト

がんの微小環境に注目し、骨転移の分子メカニズムに迫る
骨転移モデル系の開発

まず、前立腺がんの骨転移の動物モデル開発からはじめられましたね。

ラットを用いて、頭蓋骨で骨転移の組織像を得られる系を開発しました。まず、ある発がん物質と男性ホルモン(テストステロン)を用いて、ラットに前立腺がんを誘発し、その腫瘍組織から細胞株(PLS-P)を樹立しました。次に、このPLS-Pを、同じ遺伝系統の生後6週のラットの頭蓋骨の上に移植したところ、移植した腫瘍と頭蓋骨が接する部分において、「骨の産生」と「骨の破壊」の両方の組織像が観察されました。この組織像は、ヒトの前立腺がんの骨転移巣でみられるものとまったく同じでした。つまり、ヒトの骨転移をラットの頭蓋骨で再現できることがわかりました。このモデルでは、原発巣から転移巣へどのようにして腫瘍細胞がたどり着くのかという点を解析することはできませんが、転移巣にたどり着いた腫瘍細胞がどのようにして転移巣で大きくなるのか、その分子メカニズムの検討に使えることになります。

【前立腺がん骨浸潤モデルの確立】

移植後、エックス線上で移植した腫瘍と頭蓋骨が接する部分(骨浸潤先進部、TB-interface)で骨融解像がみられた。病理組織学的には TB-interface では、破骨細胞による溶骨性変化と骨芽細胞による造骨性変化を伴い、中分化型の腺がん(前立腺がん)が増殖する組織像が観察された。

骨転移のメカニズムは、どのくらいのことがわかっていたのでしょうか?

乳がんを例に説明しましょう。一般に、乳がんは40〜60代で発症し、多くの場合、手術、抗がん剤、放射線によって原発巣は一端おさまったかのようにみえます。最近では特に良い治療法が開発されたこともあり、原発巣のがん治療後であっても長生きされる患者さんが増えてきました。ところが10〜20年後、患者さんが乳がんだったことを忘れるころに、突如として骨盤、脊椎などに骨転移巣が見つかることがが少なくありません。最近の抗がん剤は優れているので、分裂の早いがん細胞は駆逐されます。ところが、あまり分裂しない、いわゆる「がん幹細胞」が生き残り、それが骨に移動して潜んでいるのではないかと思われます。そして、患者さんが高齢になって、何らかの原因で免疫状態などが悪くなると増殖しはじめると考えられます。

骨転移巣で腫瘍細胞が増殖する大まかな分子メカニズムについては、以下の仮説がたてられています。まず、骨に潜んでいたがん細胞が特定のケモカインを分泌し、骨を作り出す骨芽細胞を活性化します。活性化された骨芽細胞は、自身のRANKLを、骨を壊す破骨細胞にある受容体に結合させ、破骨細胞を活性化します。活性化された破骨細胞は、骨を壊して吸収し、腫瘍が成長できるスペースを作ります。それと同時に、骨に蓄えられていた成長因子(TGF-β)が周囲にばらまかれます。がん細胞はこのTGF-βにより、分裂を繰り返して大きくなっていきます。このように、がん細胞、骨芽細胞、破骨細胞が互いに作用し、悪循環を繰り返すことで骨転移巣が成長していくというわけです。

【乳がんの骨浸潤モデルの確立】

BalB/cマウス由来の自然発生乳がんから樹立されたマウス乳がん細胞株のCL66M2、 CL66および4T1を用い、これらの細胞を同系のBalB/cマウスの頭蓋骨の直上に移植した。同じ細胞数を移植したにもかかわらず、悪性度の異なる3種類の乳がん細胞株を移植した結果、悪性度にかかわらず、骨微小環境では破骨細胞の誘導、溶骨性変化および腫瘍細胞の増殖率は、高悪性度と同程度のレベルにまで上昇していることが判明した。