研究紹介

がん研究 スポットライト

高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)が関与する中咽頭がんを病理組織学的な視点から研究
中咽頭のがんには、発がん原因の異なる2つのタイプがあることがわかってきた。すなわち、高リスク型HPV感染によるHPV関連がんと、喫煙や飲酒などによるHPV非関連がんである。古田研究員は、がん組織を顕微鏡で観察し、HPV関連がんには特異的な異常核分裂像である傍中心体異所性染色体(ectopic chromosome around centrosome:ECAC)が出現することを明らかにした。HPV関連がんは、HPV非関連がんよりも化学・放射線療法への感受性が高いこともわかってきており、個別化治療に期待が寄せられている。免疫組織化学やin situ hybridizationも含め、病理組織学的に2つのタイプの判定基準を確立することが、がん予防や患者さんへのよりよい治療につながっていく。
公益財団法人がん研究会 がん研究所 病理部 研究員 古田玲子
高リスク型HPVは、老若男女に関係なくがんを引き起こす

がんはウイルスによっても起こるのですね?

はい。がんのおよそ5分の1は、ウイルスが原因といわれています。ウイルスに感染してもたいていは免疫系によって排除されますが、がんを引き起こすウイルスが持続的に感染すると細胞が異常に増殖し、がん細胞に変化することがあります。例えば、高リスク型HPVはE6とE7というがん遺伝子をもっており、それらの遺伝子によってつくられるタンパク質で、我々ヒト細胞の増殖をコントロールしているp53とRbというタンパク質を不活化します。E6、E7遺伝子がヒト細胞のゲノム中に組み込まれると、がん化につながっていきます。

HPVは女性だけに感染して、がんを引き起こすのですか?

いいえ。男女ともに感染します。HPVは約150型に分類されていますが、そのうちの16型や18型などの13種類ほどが、がんを誘導する高リスク型のHPVです。HPVは女性の子宮頸がんの原因として知られていますが、男女ともに頭頸部の中咽頭、肛門管などHPVの接触感染でがんを引き起こします。

【頭頸部の構造】

頭頸部とは、脳下から鎖骨までの間で、咽頭は、上咽頭、中咽頭、下咽頭に分けられている。

高リスク型HPVが感染し、がんが発生する部位には組織構造に共通点がみられます。すなわち、子宮頸部、中咽頭、肛門管には、重層扁平上皮と一層の円柱上皮の境界部があります。そこの深層に位置する細胞がHPVに感染しやすい性質をもっています。その細胞にHPVが感染することで細胞は持続的に異常増殖を起こし、さらに遺伝子異常が蓄積することで、がんに進展します。

【HPV感染によりがんが発生しやすい組織構造】

重層扁平上皮は、細胞が何層にも重なった構造をしており、表層の細胞が日々剥がれ落ちていく一方で、深層のおもに2層目の傍基底細胞層の細胞が分裂増殖している。最深層の基底細胞(幹細胞)は、低頻度で分裂するのみである。円柱上皮の下には予備細胞が散在している。重層扁平上皮と円柱上皮の境界部は、基底細胞や予備細胞にHPVが感染しやすい性質をもっており、これらの細胞への感染が、持続感染につながる。


プロフィール
古田玲子

古田 玲子(ふるた・れいこ)
公益財団法人 がん研究会 がん研究所 病理部 研究員

1986年 日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)大学院修了、獣医師、獣医学修士
1986年 同大学院病理学教室研究生、武蔵野日赤病院病理検査室研修生
1987年 癌研究会癌研病院細胞診断部(現がん研究会がん研有明病院臨床病理センター細診断断部)研修生
1988年 北里大学大学院医学研究科博士課程修了(病理学教室)、医学博士
1992年 がん研究会がん研究所病理部研究員