研究紹介

がん研究 スポットライト

高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)が関与する中咽頭がんを病理組織学的な視点から研究
研究結果は、がんの予防や治療方法の選択に貢献する

得られた結果はどのように臨床へ応用されるのでしょうか?

中咽頭がんの組織型(がんの形態学的特徴により型に分類する方法)は、ほとんどが扁平上皮がんという組織型です。以前は、その扁平上皮がんの中に発生原因、性質の異なるHPV関連がんとHPV非関連がんの2つのタイプのがんがあることは知られていませんでした。喫煙とアルコールが原因と考えられており、HPVの存在は近年になって明らかにされてきたのです。

中咽頭は、発声や飲み込みに関わる部位であり、外科手術による治療は患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を損ねる可能性があります。化学・放射線療法も、嚥下障害の心配があります。ここ数年の間でHPV関連がんのほうが、放射線、化学療法による治療感受性がよいことが明らかとなり注目され始めました。また、HPV関連がんでも、喫煙者では再発率が非喫煙HPV関連がんの5倍であるとの報告もあります。HPVの有無と喫煙歴を考慮し、なるべく低侵襲で、よりよい治療方針をきめる個別化治療への期待が高まっており、国内外で治験が進んでいます。

IHC法でp16とp53の陽性パターンからHPV関連がんを簡単に見分けることが8割は可能です。しかしながら、万全でないことも知っておくことが大切です。当施設ではIHC法によりp16とp53の発現を中咽頭がん全例で施行し、その結果を担当医に報告しています。手術か化学・放射線療法の治療を選択する参考にされています。

IHC法は、通常の病理業務として施行されている方法で簡便ですが、全国的に中咽頭がんに、HPV関連がんと非関連がんがあり、2つに分ける意義があることが十分に認知されておらず、その検査方法も、統一されておらず、普及していないのが現状です。

なお、HPV 型判定検査は、子宮頸部の前がん病変にのみ保険収載されているので、中咽頭がんのHPV DNA検査は研究として施行するしかありません。

今後の研究で明らかにしたいことは?

頭頸部がんは、部位によりHPVの陽性率が異なります。中咽頭がんは、頭頸部がんのなかで一番HPV関連がんの頻度が高く、さらに中咽頭がんの中でも側壁部でHPV関連がんが多いことがわかってきています。一方、舌がんでは、HPV関連がんが少ないことなど中咽頭以外の部位、他臓器でのHPV関連がんの実態を調べて、治療感受性の違いや治療方法の選択に有用なデータを蓄積し、今後のがん予防、早期発見のための検査方法、患者さんの治療選択に有効な情報を提供できればと思っています。また、ECACが発がんに関係する現象なのか、そもそもECACの本態は何なのかを明らかにすることを目指して研究していきたいと思っています。

がん研究において病理学者はどのような役割を果たしているとお考えですか?

私は、病理が臨床と基礎をつなぐ大事な役割を果たしていると考えています。病理は、臨床検体を用いて研究ができる位置にいますので、臨床的に何が求められているのかがわかります。一方、ヒト細胞を用いた基礎研究で得られた知見が、臨床的に実際にどのように関わるのかを検討することもできます。

ヒトと他の生物との共通点や異なる点を病理学的に研究する比較腫瘍病理学にも関心があるのですが、生命科学の各分野の研究者らとの交流をもち、医学と生物学の融合に貢献可能な立ち位置であると思っています。

古田 玲子

PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年10月17日