研究紹介

がん研究 スポットライト

高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)が関与する中咽頭がんを病理組織学的な視点から研究
中咽頭がんの詳細な解析

どのような解析を行っているのですか?

患者さんの中咽頭がんから採取された数mmの組織片検体を用いて、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、顕微鏡でがん細胞の形態的特徴とECACの有無を調べます。HE染色標本では、核が青紫色、細胞質や間質がピンク色に染め分けられ、組織構造や細胞の形態を観察することができます。このページのトップ写真は、高リスク型のHPV16型が検出された中咽頭がんのHE染色標本です。細胞分裂中期で赤道面(中央)に並んでいる染色体のほかに、両側の中心体近傍に左右対称性に出現する1個の特定サイズの傍中心体異所性染色体(ECAC)が認められます(矢印)。ECACは、中咽頭がんのHPV関連がんと非関連がんを見分ける有用な所見となります。

【傍中心体異所性染色体(Ectopic Chromosome Around Centrosome:ECAC)】

左はハイリスク型HPVが感染している培養細胞のパパニコロウ染色。右は子宮頸部の前がん病変で、HPV16型を検出した症例。細胞分裂の際、染色体は細胞の中央に集まった後、細胞の両極にある中心体に向かって引っ張られ2つの細胞に均等に分配されるが、高リスク型の感染した病変では、通常の正常核分裂では見られない傍中心体異所性染色体であるECAC(矢印)が観察される。

免疫組織化学的(Immunohistochemistry:IHC)方法で、HPV関連がんとHPV非関連がんを区別する傍証として有用なp16、p53発現の検索をします。高リスク型HPVのE6タンパク質は、ヒトのがん抑制遺伝子であるp53がコードするタンパク質に結合しp53機能を不活化させるため、IHC法でp53は斑状に陽性ないし陰性になります。また、E7タンパク質はRbの機能を消失させ、その間接的な結果としてp16が過剰に発現するので、高リスク型HPVに感染している細胞は、IHC法でp16が強陽性となります。一方、HPV非関連がんの多くはp53遺伝子が変異しており、変異p53は分解されにくいのでp53の過剰発現がみられ、IHC法でp53が陽性になります。p16は特に過剰発現していないので陰性です。

また、細胞の増殖活性を調べるのに有用なKi67で陽性細胞の率も調べています。ここまでが病理組織検査としてルーチンで施行し報告している検査です。

患者さんから研究使用の同意を得た検体では、10μm(0.01mm)でスライスした数枚の組織からDNAを抽出し、その中に含まれる高リスクHPV DNAを増幅し、高リスク型別のHPV DNAに特異的に結合するチップを使用してHPVの有無とHPV型を調べています。進行した浸潤がんで、HPV DNAの一部がヒトのDNAに組み込まれている細胞のみとなると、この方法ではHPVが検出できなくなるので、組み込まれても残るHPV DNAのE6、E7をターゲットにしたnested PCRという方法でも検索しています。また3μmにスライスしスライドガラスに貼り付けた組織に、in situ hybridization(ISH)法という方法で、がん細胞の核の中にHPV DNAが存在しているかを顕微鏡で観察して調べています。患者さんから診断のために採取された少量の検体を用いて、余分な侵襲を与えることなく、これらの検索を施行し解析しています。

【中咽頭がんの病理組織】

上段:HPV関連がん(HPV DNA検査にてHPV16型が検出された症例)
HE染色標本(左列)では、がん細胞が集合し、大小の胞巣(島状)を形成して浸潤している。ISH法ではがん細胞の核内にドット状のHPV DNAの陽性所見がみられる。IHC法(中央と右列)ではHPV関連がんの典型的パターンを呈している。がん細胞は、p16陽性、p53斑状に弱陽性である。
下段:HPV非関連がん
HE染色標本では、がん細胞の細胞質が広く、エオジン色素でピンクに染まっている。IHC法ではp16陰性、p53陽性でHPV非関連がんの典型的な結果である。

解析結果はどうでしたか?

中咽頭がん119例で調べると、HPV関連がんが約6割、HPV非関連がんが約4割でした。高リスク型HPVである16型が73%、35型が6%、18型が3%、その他の高リスクHPV型も数%存在していました。HPV DNAによる解析結果とp16、p53のIHC法によるパターンは相関性が高く、約8割が一致しましたが、2割は典型的なパターンにはならず不明確な結果でした。ECACは、HPV関連がんに73%に特異的にみられました。

注釈
【Immunohistochemistry:IHC】
細胞内の特定のタンパク質の発現を顕微鏡下で目でみえるようにして確認する方法。