研究紹介

がん研究 スポットライト

大豆イソフラボンの前立腺がん予防効果−科学的な解明から、世界規模の予防戦略へ
前立腺がんの発症数は、欧米で高く、日本では低い。その理由を日本人の食物の中に見いだし、がんの予防に結びつけられないだろうか。そう考えた泌尿器科医の赤座特任教授は、大豆イソフラボン中のある成分が腸内細菌によって活性のある物質に変換されることを突き止め、前立腺がんの予防戦略に活かす研究を進めている。
東京大学 先端科学技術研究センター 「総合癌研究国際戦略推進」寄付研究部門 特任教授 赤座 英之
ダイゼインが変換されてできるエコールが重要

大豆食品には前立腺がんの予防効果があるのですか?

私たち日本人にとって大豆食品はなじみ深いですね。豆腐、納豆、煮豆、きな粉、豆乳、味噌など、種類も多い。実は、こうした大豆食品を食べると、前立腺がんに罹患するリスクが、26%減少するという結果が疫学的研究のメタアナリシスによって出されています。

大豆食品をよく食べるのは、日本や韓国、シンガポール、タイなどアジアの国々で、米国やフランス、オーストラリアなどではほとんど食べません。そして、大豆食品を食べる国々では前立腺がんの発症数が非常に低く、食べない国では非常に高いことも知られてきました。そこで、大豆食品の効果を調べる疫学的研究が、これまで世界中でいくつか行われてきています。大豆食品を食べる人の集団と、食べない人の集団の健康状態を調査し、前立腺がんに罹患した人数を数えるという研究から得られたデータの中央値が、上の26%という数値です。

【国別の前立腺がんによる死亡率と食品別摂取エネルギー】

59ヵ国の国民について調べた後ろ向き調査。国民の前立腺がんによる死亡率と、食品別(魚、大豆、肉)の摂取エネルギーを比較した。欧米諸国とオーストラリア(赤枠)では大豆食品をほとんど摂取せず、前立腺がんによる死亡率が高い。アジアの国々では大豆食品をたくさん摂取し、前立腺がんによる死亡率が低い。

大豆食品中のどの成分に効果があるのでしょうか?

私たちが注目したのは、大豆に含まれるイソフラボン類です。含有量は、大豆の0.2〜0.3%程度と微量ですが、女性ホルモンに似た作用があることが知られていています。

イソフラボン類には複数の物質が含まれているので、まず、どの物質が前立腺がんのリスク減少に重要かを研究しました。日本人と韓国人を対象にした症例対照研究で、ゲニスタイン、ダイゼイン、それに、ダイゼインが体内で変換されて生じるエコールの3つについて調べたのです。

結論からいうと、イソフラボン類のうち、エコールの効果が非常に重要だと推測されました。ただし、ダイゼインがエコールに変換されるには、腸内細菌の働きが不可欠です。たとえ大豆を摂取しても、エコールを産生できない人(つまり必要な腸内細菌を持たない人)では、エコールの血中濃度がほぼゼロなのです。調査の結果、日本や韓国にはエコール産生能のある人が多く、逆に、欧米には少ないことがわかりました。また日本人の中でも、前立腺がんの経験者では、エコール産生能のある人の割合が、非患者での割合に比べて有意に低いこともわかりました。つまり、エコールを産生できるか否かが、前立腺がん罹患のリスクに大きく関係しているといえることがわかったのです。

【腸内細菌によるダイゼインからエコールへの変換】

エコール産生能を備えた腸内細菌をもつ人では、大豆食品に含まれるダイゼインが、ジヒドロダイゼインを経て、エコールに変換される。


プロフィール
赤座 英之

赤座 英之(あかざ・ひでゆき)
東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授、筑波大学 名誉教授

1973年 東京大学医学部卒業
1982年 米国テネシー大学泌尿器科客員助教授
1986年 東京大学医学部泌尿器科講師
1990年 筑波大学臨床医学系泌尿器科助教授
1997年 筑波大学臨床医学系泌尿器科教授
2004年 筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻腎泌尿器科学・男性機能学分野 教授(改称により)
2010年 東京大学先端科学技術研究センター「総合癌研究国際戦略推進」寄付研究部門特任教授
2000-09年には筑波大学附属病院副院長、2008-10年には、筑波大学がん診療センターのセンター長(初代)も務めた。