研究紹介

インタビュー
「NCI60がん細胞パネル」から独自の「JFC39細胞パネル」を構築

化合物の中から薬になるものを探すことを“抗がん剤の探索”と言うのだが、矢守部長は「私たちの業界用語でスクリーニングと言っています。砂をふるって砂金を見つけるというイメージですね」と砂金取りにたとえて表現した。


がん研のがん化学療法センターは設立して40年になるが、当初はアメリカ国立がん研究所National Cancer Institute(NCI)と契約し、同じシステムを導入して日本で抗がん剤のスクリーニングについて研究を行ってきた。スクリーニングを担当することになった矢守部長は、「その頃にNCIでなかなかふるいに砂金がかからないから、ふるいを取り替えよう、新しい抗がん剤スクリーニングのシステムを作ろうとなった。それでできたのが『NCI60がん細胞パネル』というシステムです」。これは、バイオロジー(生物学)とデータベースをリンクさせたような新しい抗がん剤探索の方法であった。


矢守部長は90年、91年と2度にわたりNCIへ短期留学して、NCI60開発の中心になった研究室でノウハウを学んだ。「アメリカの懐の深さというか、自分たちが非常に苦労して作った方法を惜しげもなく教えてくださった。また、実際にどのようにNCI60が運用されているかについても非常に親切に教えてくださった。お世話になったRobert Shoemaker先生に心から感謝しています」と当時を回想した。


そして、矢守部長はがん細胞パネルのノウハウを持ち帰り、独自に39株(39種類のヒトがん細胞)を選択して「JFCR39細胞パネル」というものを91年に構築した。39種のがん細胞についての「薬剤感受性」と「ゲノム情報」という2つのデータベースを作った。このデータベースは相互に連携して、抗がん剤に適した化合物や化合物の特徴などを検索することができるものである。


薬剤感受性のデータを得るプロセスを簡単に紹介すると、例えば、試験管内でAという薬(化合物)を39種類のがん細胞に加えると、Aに対する感受性の違いがそれぞれ現れてくる。つまり、薬に非常にやられやすい細胞からやられにくい細胞まで、39通りの反応が分かるのだ。次に、39種類の薬剤感受性の平均点から偏差値を求め、それを39種類の棒グラフに表現する(図1)。この棒グラフは“指紋”にたとえて化合物Aの「フィンガープリント」と呼んでおり、化合物Aを1つのパターンとしてとらえることができる。化合物は構造式で表わすのがふつうだが、JFCR39細胞パネルではフィンガープリントで表現しているのである(図2)。


図1.化合物Aを39種類のがん細胞に加えて「フィンガープリント」を作成

図2.化合物の構造式(上)とフィンガープリント(下)一律に棒グラフにすることで構造の比較が容易になる。

注釈
【化合物】
化学物質を合成して作る。あるいは天然物(植物、海洋生物、細菌・真菌など)から単一の化合物を抽出する。

【National Cancer Institute(NCI)】
アメリカ国立がん研究所。NCIではいち早く1950年代から国家プロジェクトとして「抗がん剤のスクリーニング」の研究に取り組んでいた。

【細胞株】
手術で切除されたがんの一部を、試験管の中で人口培養液の中で飼う。がんは継代(継代培養=細胞培養において、細胞の一部を新しい培地に移し、再び培養すること。)して試験管の中で増やしていくことができる。1人のがんからできた1つのcell line、これを「がん細胞株」と言う。培養に成功すると果てしなく生き続ける。一番有名なものは、子宮頸がんから作られた「ヒーラ」という名前のがん細胞株で、世界で50年以上にわたって使われている。