研究紹介

多色細胞系譜追跡法が可能にする、がん幹細胞の同定と動態解析 関西医科大学医学部病理学第一講座 上野博夫 教授
人体のほとんどの組織細胞は経時的に新しい細胞と置き換わることが知られており、そのほとんどが組織ごとに存在する「組織幹細胞」によって供給されていると想定されている。近年、「がん細胞も、がん幹細胞から供給される」とするモデルが提唱され、注目を集めている。上野教授は、細胞を多色でランダムに蛍光標識するというユニークな手法を開発し、がん幹細胞の同定と動態の解析を進めている。

造血幹細胞の動態観察に端を発した細胞系譜追跡

組織幹細胞は自己複製能と分化能を合わせもつが、受精卵やES細胞のように「あらゆる細胞へと分化する能力(全能性)」はない。「造血幹細胞は赤血球や白血球に」、「神経幹細胞はニューロンやグリア細胞に」といったように、分化可能な範囲が限定されている。

上野教授は2003年に、マウスの造血幹細胞を同定したことで知られる、米スタンフォード大学のワイスマン教授の研究室に留学し、組織幹細胞の研究をスタートさせた。そこでの研究テーマは、1次造血器(卵黄嚢)における血球細胞と内皮細胞の発生起源の関係を網羅的に解析する手法開発だった。「以前から用いられていたGFP(緑)、CFP(青)に加え、その頃、哺乳類に実用化されたばかりのRFP(赤)の蛍光タンパク質を用いて、初期胚の将来的に胎仔に寄与する全細胞を4色(赤、青、緑、無色)のどれかに標識し、細胞の動態と系譜を蛍光顕微鏡で追える技術を開発しました」と上野教授。

この手法の鍵は、各色で標識した3種類のES細胞を混和して、無色のマウスの受精卵(胚盤胞)に注入する点にあった。ワイスマン教授と上野教授は「テトラキメラ法」と命名し、内胚葉系、生殖細胞系の胎生前駆細胞の動態などを明らかにしていった。


【テトラキメラマウスの作製方法】

2006 上野ら Dev Cellより改編

上野博夫 上野 博夫(うえの ひろお)
関西医科大学 医学部 病理学第一講座 教授

1991年 東京大学医学部卒
1991年 東京大学大学院医学系研究科卒
1998年 日本学術振興会特別研究員
2000年 国立がんセンター研究所室長
2003年 スタンフォード大学医学部留学(I.L.Weissman研究室)
2010年 現職