研究紹介

過剰な鉄ががんを引き起こすメカニズムを個体レベルで明らかに 名古屋大学大学院医学系研究科 生体反応病理学 豊國伸哉教授 酸化ストレスは細胞内の分子を傷つけ、がんを引き起こす。
過剰な鉄で引き起こされる酸化ストレス

私たちは、大気に含まれる酸素を利用し生命を維持しているが、体内に取り込まれた酸素の一部は、活性酸素に変化する。活性酸素は、不安定で多くの物質を酸化しやすいため、体内で発生すれば細胞を傷つける。体内には活性酸素の害を防ぐための抗酸化機構が備わっているが、この抗酸化能以上に活性酸素が過剰に発生すると、酸化ストレスが高まり、発がんに関与すると考えられている。

活性酸素の発生の原因としては、紫外線や放射線、大気汚染、タバコ、薬剤、金属、あるいは心筋梗塞などに伴う虚血などがある。「中でも私たちが注目しているのは鉄です。鉄は生命を維持するのに重要な物質なのですが、過剰な鉄が活性酸素を発生させ、発がんにも関与すると考えています」と豊國教授は話す。

鉄は赤血球のヘモグロビンに多く含まれ、体内に酸素を運ぶほか、様々なタンパク質に含まれ、多くの生体反応に必須の物質である。しかし2価の鉄イオンは過酸化水素と反応し、活性酸素を発生させる。この反応をフェントン反応というが、ここで生じた活性酸素が、DNA傷害、脂質過酸化、アポトーシス(細胞死)などを引き起こす。

「鉄が欠乏すると貧血になることはよく知られていますが、一方で鉄が過剰になることと発がんが関連していることも報告されています」と豊國教授は話す。鉄の代謝異常であるヘモクロマトーシスやC型ウイルス性肝炎では鉄過剰が起こるが、疫学調査により、これらの病気が肝硬変や肝がんにつながることが知られている。また、アスベスト繊維による中皮腫、子宮内膜症による卵巣癌にも鉄過剰が関与することが、研究によりわかりつつある。

【過剰鉄と酸化ストレスの関係】

細胞内の酸素は電子の通り道となっている。酸素の一部は活性酸素になるが、ふだんはその活性酸素がカタラーゼなどの酵素の働きで解毒され、水になる。ところが、2価の鉄イオン(Fe2+)が存在すると、その触媒作用により、酸素は反応性のきわめて高いヒドロキシラジカル(OH)に変化する(フェントン反応)。このヒドロキシラジカルが生体内の分子を傷つける。

豊國 伸哉
豊國 伸哉(とよくに しんや)
名古屋大学大学院医学系研究科 生体反応病理学 教授

1985年 京都大学医学部卒業
1991年 京都大学大学院医学研究科修了、医学博士(病理学)
1990年 米国Food and Drug Administration (FDA)博士研究員
1992年 京都大学医学部病理学教室助手
1993年 同講師
1998年 京都大学大学院医学研究科病態生物医学助教授・准教授
2008年 名古屋大学大学院医学系研究科生体反応病理学教授