研究紹介

インタビュー
個体レベルでのがん研究支援

豊國教授らは、モデル動物を用いて個体レベルでがんを研究してきた。そのおかげで、鉄がこれまであまり想定されていなかった種々の病態にかかわっていることが明らかになった。「例えば、中皮腫について知識はあっても、実際に動物にアスベストを投与してみて初めてわかったことがたくさんあります。モデル動物を使って個体レベルの実験をすることは、細胞や遺伝子レベルの実験に比べて時間はかかりますが、思わぬ結果が得られ、非常に興奮することもあります」と豊國教授は話す。

がんの原因はゲノムの変異だが、ゲノムの変異ががん細胞の増殖となり、それが個体レベルでの症状を引き起こす。このため、がんの研究は、遺伝子、細胞、個体を連携させて行う必要がある。中でも、個体を使った研究は、専用の設備と豊富な経験がないとなかなか進めにくい。

そこで、「がん支援」では「個体レベルでのがん研究支援活動」を行っており、豊國教授もメンバーとなっている。「実際にがん治療をするときには、病理診断することから始まりますから、がん研究においても病理の形態をよく見ることが重要だと考えています」と豊國教授は語り、支援活動では、獣医師や病理医など7名のグループで、病理形態にもとづく研究を支援している。

具体的には、全国各地の研究者から送られてきた動物の試料や標本などについて、病理診断のアドバイスや解析を行っている。これまでの3年半ほどの活動で、61件の依頼に応え、47件の共著論文が出るなど成果が出ている。また、ワークショップなどを通じて、がん研究者どうしの共同研究を促したり、若手研究者を育成したりしている。豊國教授は、「これからも動物個体を使用したがん研究がもっと活性化するよう支援をしていきたい」と話す。

豊國教授らは、動物モデルを基盤として発がんの分子機構の解明に取り組み、過剰鉄による酸化ストレスが発がんに大きく関与することを明らかにした。この成果には、動物モデルが重要な役割を果たしている。鉄が誘発する腎臓がんや中皮腫の発がん機構が詳細にわかってくれば、これらのがんの予防や治療につながるばかりでなく、子宮内膜症や神経変性疾患など鉄がひき起こすそのほかの疾患の解明にもつながるだろう。

豊國 伸哉教授

TEXT:佐藤成美 PHOTO:大塚 俊
取材日:2013年12月25日