研究紹介

インタビュー
過剰鉄を抑えることががん発症予防の手立てに

「アスベストによる中皮腫の発症は、過剰鉄が鍵となっていることがわかりました。そこで、過剰鉄の状態になることを防げれば、中皮腫を予防できるのはないかと考えました」。そこで、豊國教授らは、ここでもラットを使い、「予防」を試みた。ラットにアスベスト(クロシドライト)を投与し、1か月後から鉄キレート剤を約2年間投与したのである。鉄キレート剤は、体内の鉄を薬剤の分子内に閉じ込めて、体外へ排出する作用がある。これにより、過剰鉄にならないようにした。

中皮腫には肉腫型と上皮型があるが、肉腫型の方が悪性度が高い。実験の結果、中皮腫を発症したラットのうち、鉄キレート剤を投与しなかったラットでは、悪性の肉腫型を発症した割合が69%で上皮型は4%だった。一方、鉄キレート剤を投与したラットでは、肉腫型は40%、上皮型は40%であった。キレート剤の投与により、肉腫型よりも上皮型になる割合が有意に増えたのである。これらの結果より、鉄キレート剤の投与により中皮腫の悪性度が低下することがわかった。

また、豊國教授らは過剰鉄を防ぐ方法として瀉血にも注目した。瀉血とは、献血のときのように、注射器で体内の血液を抜き取る治療法だ。私たちの体には鉄を排出する機構がないため、体内に一度入った鉄は蓄積する一方だ。そのため、ウイルス性肝炎など疾患によっては瀉血という治療法が使われることがある。その中で、米国で末梢動脈疾患の患者に6か月に1回瀉血治療を施し、5年間追跡したところ、内臓がんの発生やがんによる死亡率が有意に低下したことが報告されている。そこで、ラットでも瀉血を行って、その効果を検討したが、今回の実験では、ラットから定期的に適量の血液を抜き取ることが難しいこともあって、まだはっきりした結果は得られていない。

「私たちの実験の結果から、たとえ、アスベストを吸い込んだとしても、体内の鉄を減らせば、中皮腫を予防できる可能性が示されました。瀉血についても今後も検討を続けたいと思っています」と豊國教授は話す。

【アスベスト投与後の鉄キレート剤投与と瀉血の効果】

鉄キレート群で悪性度の高い肉腫型が少ないことがわかる。瀉血の効果ははっきりしない。中皮腫の組織型は、病理組織検査により上皮型、肉腫型、二相型に分けられる。二相型は腫瘍組織内に上皮型と肉腫型の組織型が混在する型。