研究紹介

インタビュー
アスベストによる中皮腫にも過剰鉄が関係していた

豊國教授らは、アスベスト繊維による中皮腫発がんの分子機構解明にも取り組んでいる。中皮腫とは、肺・心臓・腹部臓器をおおう膜をつくっている中皮細胞から発生した腫瘍のことである。その多くはアスベスト(石綿)を吸入したことが原因で、吸入後数十年経って発病する。職業上アスベストを吸い込み中皮腫を発症した被害者やその遺族が国に損害賠償を求める訴訟を起こすなど、大きな社会問題にもなっている。

「ラットにアスベストを投与して中皮腫モデルをつくり、調べたところ、奇しくもこれも鉄による発がんで、腎発がんモデルと同様のゲノム変化を起こすことがわかりました」(豊國教授)と、研究は意外な展開を見せた。

商業的に使われたアスベストには、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)がある。この中ではクリソタイルがいちばん発がん性が低いとされ、現在でもアジアの一部などで使われている。ところが、3種類のアスベストをそれぞれラットの腹腔内(おなか)に投与したところ、すべてで中皮腫が発生し、しかもクリソタイルを投与したものでもっとも早期に中皮腫が発生した。

さらに、腹膜周辺の臓器に含まれる鉄の量を測定すると、3種類のアスベストすべてで鉄が沈着しており、血清中のフェリチン量も増加していた。フェリチンは鉄を保管するタンパク質で、その量は体内の鉄の貯蔵量の目安になる。さらに、アレイCGH法によりCDKN2A/2B(p16/p15)がホモ欠損を起こしていることもわかった。これは、ヒトの中皮腫でも報告されているゲノムの変化である。

豊国教授は「中皮腫の発症過程で、局所的に鉄が過剰になることを明らかにできました。クリソタイルが中皮に接触したときに、局所的に鉄が過剰になることで中皮腫を誘発するのでしょう」と話す。これまでは疫学調査により、アスベストの発がん性が示されてきたが、豊國教授らはアスベストが中皮腫を引き起こすことを実験で示し、クリソタイルも発がん物質となることを明らかにした。

ただし、ヒトでは、吸い込んだアスベストの細いガラス状の繊維は何十年もかけて肺を通過し、おもに胸腔(肺の外側の空間)の中皮細胞をがん化させている。ヒトでも腹膜中皮腫は発生するが、気道や肺の役割は別に考慮する必要があるという。

【アスベストによる中皮腫発症機構】

ラットへのアスベスト投与実験をもとに、豊國教授らが考えている中皮腫の発症機構。3種類のアスベストのいずれでも、中皮細胞に鉄がたまることが発症の原因と考えられる。ただし、クロシドライトとアモサイトは鉄を含むが、クリソタイルは鉄を含まない。クリソタイルは赤血球を壊し、そこで放出された鉄が中皮細胞にたまると推測している。

一方で、豊國教授らは、近年よく使われるようになったカーボンナノチューブの直径と発がん性に強い関連があることも、ラットの実験で突き止めている。