研究紹介

インタビュー
過剰鉄による発がんモデルの確立

「30年以上前、京都大学の翠川修教授と岡田茂博士が、鉄のキレート剤である鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)をラットに投与し、腎臓がんができることを偶然発見しました。しかも、腎臓の尿細管でFe-NTAがフェントン反応を起こしていることも明らかにしたのです。その後、私は翠川教授の研究室の学生となり、先生方とともにFe-NTAによるラット腎発がんモデルを酸化ストレスによる発がんモデルとして確立しました」と豊國教授は、モデル動物確立の経緯を振り返る。

豊國教授らはこのラット発がんモデルを詳細に解析することで、過剰鉄による発がんの機構を明らかにしてきた。特に、アレイCGH法を用いて、酸化ストレスによってどのようなゲノムの変異が起こるのかを調べた。この方法では、蛍光の色を調べるだけで、染色体の欠失や塩基の変異を知ることができる。

【アレイCGH法の原理】

まず、がん組織と対照組織(正常組織)からDNAを抽出し、それぞれ異なる色の蛍光色素で標識する。次に、スライドガラスの上にはりつけた多数の標準DNA断片と、標識したDNAとの間で相補的な複合体を形成させる(ハイブリダイゼーション)。蛍光色素の色を読み取ることで、染色体全体に生じる重複や欠失などの異常を検出する。

豊國教授らは、アレイCGH法を用いて、がん細胞のゲノム中で高頻度に重複や欠損などの異常が起こる部分を検出し、さらに高頻度に異常が起こる遺伝子を特定していった。そして、がん抑制遺伝子であるCDKN2A/2B(p16/p15)がホモ欠損を起こすといった発がん機構を明らかにした。ホモ欠損とは対立遺伝子が2つとも失われるということだ。がんの機構の解明は培養細胞を使うことが多いが、これは野生型動物の腫瘍を用いて発がん機構を詳細に明らかにした世界で初めての報告だった。

「鉄による酸化ストレスは、さまざまな遺伝子の欠損や増幅を引き起こすことがわかり、多数の標的遺伝子を見つけることができました。この結果はラットの実験で得られたものですが、見つかった標的遺伝子は、ヒトのがんにおいてもよく見られる遺伝子ばかりでした。動物の発がんモデルからもヒトに役立つ情報は十分に得られると思います」と豊國教授は説明する。

【発がんモデルラットにおけるコピー数異常の頻度】

ゲノムの各部位におけるコピー数異常の発生頻度。上側の縦棒はコピー数増加(薄い赤)または増幅(濃い赤)と判定されたがんのサンプルの割合を、下側の縦棒はコピー数減少(薄い緑)またはホモ欠失(濃い緑)と判定されたサンプルの割合をそれぞれ示す。コピー数異常の頻度が高い部位に一致する2つのがん関連遺伝子(MetおよびCdkn2a)の位置を示した。DOI: 10.1371/journal.pone.0043403より転載。