研究紹介

インタビュー

多彩な機能、かつ分子群が複雑過ぎて、どれに絞り込むべきかが悩み

今後の課題は、技術的なことをはじめたくさんあると田中博士はいう。「まず、予想以上に転写複合体が複雑だということです。たとえばDNAを介した複合体、RNAを巻き込んだRNA複合体、核酸をもたないタンパク・タンパク複合体といったものが核内のいたるところにあって、一過的にさまざまな分子と相互作用しているため、精製してみるといろんな分子がとれてしまうのです。加えて、核内の構造がとても複雑です。純度の問題もあって、なかなか目的の複合体にいかないという苦労があります。新技術ではないまでも、古典的な生化学的手法をあれこれ組み合わせて、DNAだけを含むDNA複合体とRNAをもっているRNA複合体とタンパク・タンパク複合体にわける方法をアメリカから帰国以来取り組んでいて、それがやっと出来上がったという段階にいます」

何よりもp53の研究論文は年間3000報も出るほど、競争が激しいテーマ。最も著明な分子なのに、研究すればするほど次々に謎が出てくるという。かつて、ヒトゲノム解読が終了すればDNAの全貌は明らかになるなどと思いこんでいたが、その実、p53の機能一つにしろ、いまだわからないことだらけというのが現実だ。p53はいろいろな細胞にあって多面的な機能をもつために、研究資金面や人的・時間的制約の中で、世界をリードするために、 “何に目をつけ” =目利き、“どれに絞るべき”=集中突破が、田中博士にとって今後の大いなる課題であり、「クロマチンとnon-coding RNA」が鍵だという。

「私の講座は細胞治療内科学ですから、やはり細胞レベルでがんの根治、そして克服を可能にできたらというのが究極の目標です。メカニズム研究は、正にその基盤整備なのです。エピゲノム情報を書き換えることによって、細胞レベルでがんを正常化に書き換えられる治療を実現するための、創薬標的の掘り起こしが具体的な目標なのです。そのためにも、クロマチンの複合体解析技術、次世代シークエンサーはもちろんのこと、1分子(細胞)シークエンス、メタボロミクスなど最先端解析技術を融合させたES/iPSの機能解明をリンクさせて、そこからがん幹細胞や新しいエピジェネティクスによってヒト細胞をコントロールする仕組みとその本質に迫れるような研究ができたらと思っています。人間が逃れることが出来ない4つの苦しみ”生老病死”を細胞レベルで克服することが、私の夢なのです」

田中知明

TEXT:冨田ひろみ PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年9月24日