研究紹介

インタビュー

がん発症と細胞代謝とが関係アリ?

‘メタボ’(=メタボリック症候群)は、がんと並んで現代人の健康を語るうえで欠かせないキーワードの1つ。興味深いことに、糖尿病や肥満の患者さんはがんになりやすいことが知られている。また、p53の遺伝的多型(SNP)が、がんだけでなく、生活習慣病リスクや寿命の長さにも関わっていることは、実に面白い。細胞の中のメタボリズム=代謝が、実はがん発症に密接に関わっており、転写複合体であるp53が代謝をも調節していることがわかってきたという。
「RNAシーケンスやメタボロミクス解析などを複合させて遺伝子発現の解析をすると、がんにおける代謝と幹細胞のそれとでは、代謝のしくみが一部とても似ている」と語る田中博士は「まだ解析中ですが…」と断りをいれながらも、「ES/iPS細胞ではミトコンドリアが非常に未分化で、エネルギーは嫌気的回路、つまりがんの代謝に非常に似ていて、ワールブルク効果を呈しています。ところが、‘抗酸化作用’をみると、一般にがん組織では活性酸素が高いが、がん幹細胞やiPSでは非常に低いことがわかってきました」と解説する。そうした研究から、田中博士らがp53の下流遺伝子として発見したのがGLS2という遺伝子。このGLS2による代謝調節作用は、がんの発症早期において、アポトーシスや細胞周期や細胞老化などよりも、がん化に影響を与えているという報告が、他の研究者から出されているという{2012年4月Cell発表}。

「p53をつぶすと細胞の抗酸化作用がなくなるということで、p53による幹細胞の制御には、とくに代謝を調節するしくみがあり、それが鍵を握っていることは明らかです。一方で、核がリプログラムするときには、核内のクロマチン複合体が特定の代謝を調節する遺伝子を制御していて、複合体の中に含まれている何かがその鍵を握っているようです。その正体を明らかにすることが、おそらくは、がん発症の根幹(がん幹細胞制御)に関わる分子や遺伝子群の同定につながると考えています。まだまだ多くの謎が残されており、明らかにできるのはだいぶ先になりそうです……」と田中博士は語る。

【iPS/ES細胞におけるp53の役割 ‐がんとの違い‐】
iPS/ES細胞におけるp53の役割 ‐がんとの違い‐

注釈
【ワールブルク効果】
Warburug Effect
がん細胞における嫌気性解糖系の亢進。発見者名Warburgにちなむ

【GLS2】
phosphate activated glutaminase
p53により誘導される下流遺伝子の1つでグルタミン代謝を司る抗酸化分子