研究紹介

インタビュー

転写因子としてのp53に注目

ヒトゲノムの解読が終了して、私たちの体には遺伝子がおよそ2万数千あるとわかった。最近の10年で、ヒトやマウスの大規模なゲノム解析が進み、ゲノムの約7割にも及ぶ大量のRNAが転写され、さらにその半分はタンパクに翻訳されない(non-coding RNA)遺伝子であることがわかってきている。これら遺伝子が細胞の運命を左右したり細胞の機能を調節している。

遺伝子の情報を司るDNAは二重螺旋を描き、ヒストンというタンパク質(八量体)に約1回半巻きついた「ヌクレオソーム」で構成されている。ヒストンにはリン酸化やアセチル化、メチル化といった化学修飾がなされている。DNAの1次的配列だけでは説明できない現象があることは、DNA配列が同じはずの一卵性双生児でも全く同じ人間にはならないことからもよくわかる。父親由来のDNAと母親由来のDNAのどちらかが不活性化するという情報がゲノムに刷り込まれているせいだ。

DNA以外のヒストン(タンパク質)には、リン酸化やアセチル化、メチル化といったさまざまな化学修飾がなされていて、そうした修飾が遺伝子の発現を制御していることがわかってきた。これが「エピジェネティクス」であり、遺伝子の発現を「オン/オフ」させるスイッチとして機能するのが「転写因子」だ。細胞が内外から受ける刺激をシグナルとして受け取り、核内に伝達する転写因子は、ヒト細胞の核内に約1800種類あるとされる。山中4因子然り、そしてp53もまた、転写因子なのである。転写因子を制することは、遺伝子の動きを支配し、ひいてはがんやiPSを制することにつながる。田中博士が、転写因子としてのp53に着目した所以である。

【ゲノムに隠された第2の暗号:エピジェネティクス】

次世代型シーケンサーの登場によりゲノムサイエンスは飛躍的に進歩した。それによりDNAの配列以外のシステムが疾患や生命現象の根幹に関わっていることがわかってくると、田中博士は「転写因子を制する者は、細胞を制す」と考えるようになったという。転写因子としてのp53を生化学的なラボで研究したくて渡米し、コロンビア大学のCarol Prives教授の下で5年間、質量分析器のマス・スペクトロメトリー部門責任者を務めながら現在の研究テーマの発想をふくらませていったそうだ。

田中 知明