研究紹介

大規模な集団を対象に、環境要因、遺伝子型と発がんの関連を探る 田中英夫部長
大規模な集団と対象疾患を設定したうえで長期間にわたる観察を行い、得られた結果を集計・解析することで、疾患の原因、病態、予防法などの解明に役立てる疫学研究をコホートという。愛知県がんセンター研究所 田中英夫部長らは、従来の方法に「遺伝子型のちがいの情報」を加え、さまざまながんの発症との関連について解析を行っている。また、コーホート研究によって得られた生体試料や匿名化データの提供を通じて、広くがん研究への支援活動も行っている。

1950年代にはじまったコホート研究

世界ではじめてコーホート研究とよべる疫学研究を行ったのは、イギリス オックスフォード大学のリチャード・ドール教授(当時)だとされる。ドール教授は1951年に、タバコを吸うイギリスの医師3万4000人あまりを対象に調査を始め、1954年に「喫煙は、肺がんの発症と関連する」とする論文を発表。その後も、実に50年にわたって追跡調査を続け、心臓病をはじめ、喫煙が原因で発症すると考えられる病気が25もあること、禁煙によって中年以降の死亡リスクを大幅に減らせることなどを報告した。

日本では、1960年代に厚生省(当時)の委託を受けるかたちで、がんをはじめとした様々な慢性疾患の発症(死亡)との関わりについて調査する「平山コーホート」が立ち上がったのがはじまりとされている。「タバコを吸わない40歳以上の妻、約9万人」を対象に14年にわたって調査が続けられ、1981年に「夫がヘビースモーカーであるほど、妻が肺がんを発症して死亡するリスクが高い」ことが報告された。。これは、タバコの副流煙が、身近にいる人の肺がん発症リスクをも高めることを世界に先駆けて報告したもので、その後の世界中の喫煙対策に大きな影響を与えた。

河上 裕 田中 英夫(たなか ひでお)
愛知県がんセンター研究所
疫学・予防部 部長

1986年 秋田大学医学部卒業、1994年 中央大学法学部卒業、大阪府立病院にて臨床研修後、大阪府立成人病センター調査部にて がん、慢性肝炎と がんの疫学研究に従事。
1999年 同主幹、2006年 同疫学課長、2007年 同調査課長。
2007年10月 愛知県がんセンター研究所疫学・予防部長に着任。
2008年4月 名古屋大学連携大学院客員教授(健康社会医学)。
日本疫学会理事、日本癌学会評議員。(医学博士)


注釈
【コーホート】
ある時点において、年齢や性別など、共通の因子をもつ集団のこと。もとは人口学の用語だが、疫学研究においては、追跡調査を行って観察当初の要因と病気の発症(死亡)との関連を調べる研究の対象者集団を指す。