研究紹介

血管領域でがんを潰す 高倉伸幸 がん幹細胞の自己複製はどのような分子で誘導されるのか
血管領域に注目したきっかけは、造血幹細胞の研究から 血管領域のがん組織研究において、高倉伸幸教授は新しい解析結果を次つぎ発表・報告している、この分野のトップランナーの一人である。しかし、意外なことに15年くらい前には「造血幹細胞の研究をしていた」という。

幹細胞とは、いろいろな細胞の中でも発生源となる細胞のことで、血液の場合は文字通り“血液を造る”という意味で「造血幹細胞」と名付けられている。造血幹細胞は生命の維持に非常に重要な細胞で、「もし、試験管の中で増やすことができれば、白血病の骨髄移植の時に大量の骨髄液を使わずにすみ、再生医療として活用できるのではないだろうか」と高倉教授は考えた。

では、「造血幹細胞はどこでどうやって増えるのか」。その基本的なところを知らないと始まらないというわけで、造血幹細胞の解析に着手した。

まず胎児期マウスを使って、誕生前の造血幹細胞の発生・増殖の場所を突き止め、「これが造血幹細胞だ」と言えるような分子を発見。1998年に、「造血幹細胞は、胎児と卵黄嚢との間を結んでいる動脈、臍腸間膜動脈の中で増える」と報告。

臍腸間膜動脈内で増殖する造血幹細胞

そのあと肝臓に移動した造血幹細胞は、同じように血管の領域で増えていることを解明した。高倉教授は、その時点で推測した。

「どうやら造血幹細胞が増殖する場所は、いつも血管の近くではないか」

その後、造血幹細胞が血管を作り出すこと、造血幹細胞がないと血管の網状構造はできないことが分かり、2000年に発表・報告した。造血幹細胞は、血管新生に非常に重要な役割を果たしていたのである。さらに、「この細胞は、いわば、女王蜂が自分の巣を作っていくのと同じように、その血管を増殖現場として使いながら、自分が住みやすい場所をみずから構築する機能がある」ことも確認できた。

造血幹細胞

この頃、神経系や他の組織の幹細胞も血管の領域で増えるという報告が、世界中で次つぎ発表され、血管という「微小環境」がいろいろな細胞の幹細胞の増殖に強く関わっていることが、発生学的な解析で明らかになってきた。高倉教授は、「がん幹細胞も同じように、血管を微小環境としているのではないか」と考え始めたのである。
高倉教授 高倉 伸幸(たかくら のぶゆき)
大阪大学 微生物病研究所 
情報伝達分野 教授

昭和63年三重大学医学部卒。5年間血液内科医として臨床に従事。その後、画期的ながん治療薬および組織再生療法の開発をめざして基礎研究に入る。平成9年京都大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。熊本大学医学部にて助手〜助教授を経て、平成13年金沢大学がん研究所、教授。平成18年より現職。日本血管生物医学会理事、大阪大学大学院医学系研究科・組織再構築学講座、金沢大学がん研究所客員教授を兼ねる。


注釈
【幹細胞】
英語stem sell。様々な種類の細胞の発生源となる細胞のこと。血液の細胞の場合は造血幹細胞である。複数の系統細胞に分化できる能力や、細胞分裂をして自己複製の能力、の2つを併せ持つ細胞。stem=幹から付けられた名称。

【固形がん】
がんは固形がんと血液がんに大別される。固形がんは大腸がん、肺がん、乳がん、胃がん、前立腺がんなど。