研究紹介

インタビュー
「微小環境」という超ミクロの世界で、がん細胞が好む血管ニッチを解明する 「微小環境」というのは、血管を取り巻く周囲の細胞を全体的に表現している。言葉を換えれば微小血流、微小循環である。高倉教授は、「私たちの研究はもちろん血管を中心にしているが、血管の周りにいる細胞や、タンパク質、マトリックスなどを含め全てを統括的に考えている」。

「ニッチ」という言葉は近年、隙間産業を表す意味で「ニッチ産業」などと使われていて、ご存じの方もあろうが、医学の分野で使う「ニッチ」は、高倉教授の説明によれば、

「ニッチ(niche)というのは、日本語で正確に訳すと『生態学的な適所』。一般的に、ある特定の細胞が好んである特定のところに存在している、その場所のことを生態学的適所といい、特に幹細胞がある特定の領域に好んで棲息している場合を『ニッチ』という。例えば、造血幹細胞が好んで棲息していれば『造血幹細胞のニッチ』といい、血管のところを好んで増えているようなら、その現場のことを『血管ニッチ(vascular niche)』と表現する。ふつうの成熟した細胞のときはあまり使われない」

人間一人の体の中の血管は、全部合わせると約10万kmある。高倉教授は、「では、どこでもニッチになれるかというと、そうではない。どこの血管がニッチになれるのか。そのニッチになれる資格がある血管は、どういうふうに作られるのか、それを解明していく」という。

正常組織の成熟した血管や成熟しつつある血管と、がんの中の成熟した血管や成熟しつつある血管とは、絶対に違うところがあるはずと、高倉教授はにらんでいる。だから、がんの中の成熟血管に発現していて、正常組織の血管では発現していないような「分子」を見つける。そして、その分子を標的として薬剤を運んでいって、その成熟血管だけを潰しにいくような方法というものを開発しようとしている。

「言い換えれば、その標的分子が存在する血管ニッチの住所が分かればいい。抗体に薬剤をくっつけてその住所のところへ運べば、正常な血管を傷つけずに周囲のがん細胞を殺したり、がんの血管だけを潰したり、ピンポイントでの効果が得られる治療法が可能になってくると思う」

注釈
【マトリックス】
英語 matrix。正しくは細胞外マトリックス 、英語extracellular matrix。「細胞間質」あるいは「細胞外基質」「細胞間マトリックス」ともいう。細胞の外に存在する超分子構造体で、隣り合う細胞との空間を満たし、細胞の接着や増殖因子などを保持する役割などを担っている。

【血管ニッチ】
英語 vascular niche。「ニッチ(niche)」には、1.(西洋建築で)壁面のくぼみ、2.トンネル・橋などに設けられた退避場所、3.隙間、などの意味があるが、もう1つ、生態的地位という意味がある。
医学関係で使用されるニッチは、日本語で正確に訳すと「生態学的な適所」という。一般的に、ある特定の細胞がある特定の場所に好んで存在している、その場所を生態学的適所といい、特に幹細胞がある特定の領域に好んで棲息している場合を「ニッチ」と呼ぶ。
ふつうの成熟した細胞ではあまり使われない。