研究紹介

インタビュー
がん細胞の中のがん幹細胞は未熟なうえ、さらにがん細胞を産生する能力がある 高倉教授が、血液のがんである白血病から固形がんへ、研究をシフトさせてきたのは自然な流れであった。というのも、これまで、がん細胞はどれも均一な細胞だと言われてきた。しかし、がん組織の中のある特定の細胞ががん細胞を産生して“未熟な状態”で維持されていて、なおかつ非常に悪性化を持ち、“死なない細胞”であることが分かってきたのである。

例えば、血液の流れに沿って遠くへ行って着床すれば転移巣を作る。あるいは、この悪い細胞が浸潤していき、がんがどんどん大きくなる。そういうがん細胞の中にもいろいろ階層性があり、もっとも未熟ながんの幹細胞というものの存在が分かった。

ところが、このがん幹細胞は、幾つの細胞にも分化できるのかというと、そうでもない。いろいろながん細胞を産生する能力があるかもしれないが、いわゆるがん細胞を産生するという能力でいえば1種類の細胞だけなので、高倉教授は「『がん幹細胞』という言い方は、造血幹細胞のような正常組織の幹細胞の概念と同様に扱うには、若干大げさかもしれない」と感じている(本記事の紹介後、脳腫瘍のがん幹細胞が血管内皮細胞へ分化することが発表されている)。

がん幹細胞が本当に未熟かどうかというのは、まだ完全には解明されていないが、ある細胞がある細胞を産生したら、その上の細胞は「未熟な細胞」と呼ばれる。例えば、造血幹細胞が赤血球か白血球になっていったら、白血球よりこの幹細胞の方が未熟な細胞と定義される。この細胞ががん細胞を産生したとなれば、この細胞はがん細胞より未熟な細胞と言えるので、がんの幹細胞はがん細胞を産生する能力があるという点で未熟な細胞と判定できるのである。

この未熟ながん幹細胞は、抗がん剤に抵抗を示すため、この細胞を潰さないとがんは治らないと言われている。もっとも悪性度が高いと思われるがん細胞ほど、最近話題となっているES細胞(胎性幹細胞)の遺伝子型によく似ていて、発現している遺伝子そのものも、非常に未熟なES細胞のような遺伝子型を示すのではないか、と言われているそうだ。

注釈
【未熟】
「未熟」という言葉は一般的には、例えば、未熟な果物、未熟な腕前など十分な能力や程度に達していない意味で用いられるが、細胞学の分野では「何かを産生できる能力を持つ」「分割できる能力を持つ」というときに「未熟」という。

【死なない細胞】
悪性腫瘍の一つであるがんは、炎症が起きている状態がずっと続くことから「治癒することのない炎症」とも呼ばれている。

【正常な組織細胞】
組織細胞は、本来、必要以上に分化分裂をしないように調節されている。その調節に異常が生じてみずから増殖を始めるようになった組織(細胞の塊)を「腫瘍」という。「腫瘍」は、生命に及ぼす影響の程度から良性のものと悪性のものとに分けられる。