研究紹介

インタビュー

めざすゴールは核酸医薬の開発とマーカーの発見

今回の研究で注目すべきなのは、がん細胞の増殖を抑制するために、もともとわれわれの体の中にある足りなくなったmiRNAを補充したという点だ。「われわれが考えているのは、なくなったものを投与すること(これを田原教授らはmiRNAセラピーと呼んでいる)で老化(senescence)をリプログラムすれば、がんを抑制することができるということです」と語る田原教授らを中心とした研究グループがめざす最終目標の1つは、核酸医薬品の開発なのである。
これはもちろん、既存の抗がん剤を否定するわけではないと田原教授は強調する。「否定ではなくて、既存の抗がん剤にはできないもの、あるいはmiRNAとの併用によって延命効果がさらに高まるものが出てくればいいと考えています。がん患者さんにとってはとりわけ『再発』が心配です。再発となると抗がん剤が効きません。けれども、miRNAならもともと自分の中にあるものですから、抗がん剤耐性も克服できるし、治療として有用ではないかと考えています」
そしてもう1つの最終目標が、早期発見・診断につながるマーカー的なものの開発にあるという。miRNAは、実は細胞膜と同じようなつくりの脂質のカプセルに閉じ込められて外に出ていくことがわかっている。このカプセルはエクソソームとよばれ、大きさにして約100ナノメーター、エイズウィルスくらいの小ささ。このエクソソームは、われわれの体で体液として分泌されて、いろいろな細胞・組織を移動する。だから疾患発症前、あるいは症状が進む前に血液中のエクソソームにあるmiRNAを測ることで診断が可能になれば、疾患の早期発見につながり、ひいては治療効率にもつながると期待されている。
「がん細胞は、比較的たくさんのエクソソームを分泌する性質をもつ傾向にあり、転移とも密接にかかわっています。つまりエクソソームを検出できれば、それががんの超早期診断につながるし、そのがんに特定したmiRNAによる治療が可能になるという将来もみえてきます」
病気の早期発見に関して言えば、田原栄俊教授らが2012年に開始を予定する健康診断システムも非常に興味ぶかい。テロメア長とテロメアのG-tail長を計測した遺伝子年齢のリスク診断を行なうベンチャー事業をスタートするという。当面は研究用の受託販売(キット)に限るそうだが、このプロジェクトは2011年秋に「ひろしまベンチャー育成賞(金賞)」を受賞したほど、周囲の期待もふくらんでいる。
さらに、この遺伝子年齢のリスク診断では血液を5cc採取するが、血清のDNA中にエクソソームが残るのでmiRNAの診断も可能になるという。「テロメアとmiRNAを組み合わせたリスク診断ができるのが特徴の1つです。これにより、たとえば乳がんの可能性があるとか、肝臓がんの可能性があるといったことが診断できるようになるでしょう」と田原教授は語る。実際、がん患者はテロメアが短い人が多いそうだ。テロメア長が短くがん細胞特異的なmiRNAが発現していたら高リスクにあることが指摘できて、発症予防にも役立つはず。現状の健康診断では足りない部分を、このリスク診断システムが埋めてくれそうだ。

TEXT:冨田ひろみ PHOTO:荒井邦夫
取材日:2011年11月22日