研究紹介

インタビュー

細胞老化を導くmiRNAを追い求めて

バイオロジーの世界で注目されてきたmiRNAは、われわれの体内にあるDNAのうち、ノンコーディングの(タンパク質がコードされていない)RNAの1つ。このノンコーディングのRNAはゲノムDNAからpri-miRNAが転写され、pre-miRNAを経て二本鎖のmiRNAがつくられる。
「かつて、これってゴミじゃないかと思われたほどの小さいものが、実はタンパク質の翻訳阻害ばかりか転写も阻害したり、より上流のゲノムの転写の部分も制御するエピジェネティックな制御もしていることがわかってきました。いままでは説明のつかなかったものがmiRNAによって説明できるかもしれないという期待が出てきたのです」と田原教授は説明する。いろいろな細胞の増殖、発生、分化における制御にかかわるmiRNAなら、当然「老化」にもかかわっているだろうと田原教授らは仮定したのだ。
ところで、われわれの体の中の細胞はどのように老化し、そのなかからがん化する細胞があらわれるのか? 念を押すまでもないが、細胞の老化をきめるのはテロメアだけではない。環境的ストレスや放射線などのDNAダメージを含めた外的要因も老化にかかわる。われわれの体の中では、では、若いときはどんどん細胞が増えていくが、加齢とともに増殖がゆるやかになり、さらにはさまざまなストレスやDNAダメージなどが蓄積される。とはいえ、ダメージを受けた細胞がみながん細胞になるわけではない。
例えば子宮頸がんの原因因子であるヒト・パピロマウィルスや、SV40(シミアンウイルス40)というアカゲザルから分離されウィルスを細胞にいれると細胞の寿命が延びることは以前から知られているが、その場合でも細胞の寿命は延びこそすれ、結局、分裂は途中で終わる(寿命がくる)。そこに、いろいろな発がん物質などをふりかけると不死化する細胞も出てくるが、それは実に10の8乗や10の9乗個のうちの1個というほど、ごくわずかな確率にすぎない。
エイジングにより若い細胞が分裂を繰りかえすうちに、さまざまな変異を蓄積しながら、老化した細胞が次々にできる。そのなかには、がんになるおそれのある細胞(前がん病変領域にある細胞)も現われる。そうした細胞(組織)をよくみると、まわりには相当な量の老化細胞がでてきている。ところがわれわれの体の中では、たとえれば「老化に対するバリア」のようなものが立ちはだかり、そこにはp53とかpRbといったがん抑制遺伝子が存在して、細胞ががん化しないようにはたらきかけているのだ。
「ところが、あるきっかけで細胞が老化のバリアを乗り越えてしまうときがあります。そのとたん悪性度の高い細胞がいっきに増殖する。そうした状態のところには老化細胞はあまりみつかりません(下図)。老化細胞で機能していたRbやp53も消えています。つまり、悪性度の高い細胞とは、がん抑制遺伝子にかかわるものの機能が抜けでてしまい、老化のプログラムを忘れてしまった細胞ではないかと考えたのです」
細胞老化に至る経路のどこかに、老化にかかわるmiRNAがあるはず。だとすれば逆に、悪性度の高い細胞に老化のプログラムをオンにするようなmiRNAを与えれば、老化を誘導して増殖をとめることができるのではないかと田原教授は考えたのである。

注釈
【miRNAの機能】
多くの遺伝子やタンパク質の発現を制御する機能をもつ。siRNAと異なり1つのmiRNAで約100以上もの遺伝子を標的にする。がんだけでなくさまざまな疾患でmiRNAの発現が増減するため、疾患発症にかかわる重要な遺伝子群の調節にかかわっているとされる。